大物地面師が暗躍した「世田谷5億円詐取事件」の真相

【スクープリポート】地面師を追う➀

取引を急がせた容疑者たち

津波が説明してくれた。

「持ち主、東亜エージェンシー、うちの会社というAからB、BからCという取引のつもりでした。本来、二社で取引をすればいいのだけれど、20回に一度くらいはB社に利益を落とすため、そういうケースもあります」

警視庁に、「地面師集団のボス」として本件の犯行を画策したと目されてきたのが北田だが、斯界ではその名が知られているせいもあり、津波に対しては本名の北田文明ではなく、明と名乗った。北田は「伍陵総建」や「東亜エージェンシー」といったペーパーカンパニーを取引の表に立て、なるべく津波との交渉現場には立ち会わないようにしていたが、それでも要所要所では交渉に出てきたという。

詐欺は、最初から巧妙に仕組まれていた。元NTT寮の持ち主は、ほかにも宮城県仙台市内の山林を所有する資産家であり、当人は「山林とセットで20億円以上の値段で売りたい」と北田たちに持ちかけていた。ふたつの取引を巧みに使う、いわゆる「二重売買」だ。

それを承知しながら、東亜エージェンシーは津波に元NTT寮の買い取りだけを持ちかけたというから、持ち主が納得して取引が成立するはずはない。はじめから騙すつもりだったといえる。が、それを津波は知る由もない。

「二重売買」で出てくる山林と元NTT寮をセットで買い取るという会社は「プリエ」といった。これも北田が用意したと目されるぺーパーカンパニーだ。

プリエは物件の持ち主Aに対し、希望通り元NTT寮と仙台の山林を合わせ、20億円で二つの不動産を買い取ると約束した。その実、裏では津波に対し、東亜エージェンシーが元NTT寮だけを持ち主から買い、5億円で転売すると提示した。まったく異なる二つの取引なのだが、津波はそうとも知らず、5億円を用意する羽目になる。

地面師集団に限らず、詐欺師が相手を騙すとき、取引を急がせる傾向がある。彼らにとってはどさくさに紛れて取引を進めるスピードが大事だといえる。実際、このケースでも、津波は話が持ち込まれた4月半ばから2週間後の月末取引を要求された。

「他にも競争相手がいるので、取引をさらわれてしまう」

そう言って津波に危機感を植え付け、買い取りを急がせた。津波はさすがに4月中の契約は無理だと断ったが、そうそう先延ばしにすることもできない。そして5月に入り、実際に取引の交渉が始まった。

不動産取引のプロである津波は、むろん持ち主の存在を確認するため、仲介者である東亜エージェンシーに、持ち主本人との面会や直接交渉を要請した。通常の地面師事件では、犯行グループがここでなりすましを用意するのだが、このケースでは本物が立ち会ったので、余計に信じ込んだともいえる。