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大河ドラマ「西郷どん」林真理子が描く英雄はこんなに魅力的!

こんな面白い人生を歩んでいたとは

荷が重いとは思ったが…

―来年の大河ドラマの原作となる本書は、西郷隆盛の人間味あふれる一面を生き生きと描き出した作品です。いま、西郷さんを書こうと思われたきっかけはどこにあったのでしょう。

4年前に『正妻 慶喜と美賀子』を書いた時からご指導いただいた磯田道史先生に、「'18年は維新から150年だから、きっと大河でも維新の話をやりますよ。『花燃ゆ』で長州の話をやったから、薩摩の西郷さんを女性の目線で書いてみたら面白いのでは」とアドバイスを頂いたんです。

変わり者の徳川慶喜を書くのは楽しかったけれど、西郷さんはどストライクの「偉人」ですから、私には荷が重いと思いました。でも「背伸びなくして成長なし」が私のモットーですから、これは書かなくては、と思って連載を始めたんです。そうしたら、NHKからお声がけいただいて嬉しかったです。

―もともと日本史はお好きでしたか。

いわゆる歴史オタクではありません。しかも幕末の人たちって、口では「尊皇攘夷」と言いながらも行動は開国へ向かっていたりと、行動や真意がわかりにくくてとっつきにくい印象がありました。実際、資料を読んでいても複雑で難しい。

それで、私がわからないことは読者の皆さんにもわからないだろうと考え、数年前から大学の先生に月1回お会いして、こちらの疑問を全部ぶつけていきました。どうせならイチから取材して、みんなの知らない西郷隆盛像を書こうと思いました。

 

―本作は西郷隆盛の息子、菊次郎が父の人生を語る形式になっています。

偉人本人にフレームを当てて書くと、ありがちな伝記モノになってしまう。『正妻』を書いたときも慶喜の奥さんの視点を取り入れたように、私の作品では、主人公を別の視点から観察する人間をかならず入れるようにしています。菊次郎を選んだのは、彼自身が西南の役に参戦して右足を失った人物なので、あの争いを自分の言葉で語れる人だと思ったからです。

それに、彼がのちに二代目の京都市長になったことは世間にあまり知られていないので、そのことも書きたかった。

今の日本を「西郷どん」はどう見る?

―前半は薩摩藩の当主、島津斉彬への西郷の熱い思いが描かれます。まるで、恋愛感情のようです。

西郷さんの斉彬への想いは同性愛に近かったのではないかと思います。日本近代史の原口泉先生に、こんなこと訊いたら怒られるかと思いつつ、恐る恐る「西郷さんはゲイだったのでしょうか……」と尋ねたら、あっさり「そうかもしれません」って。

安政の大獄で追われた僧侶の月照と身体を絡めあわせて入水したことからも、それは窺われます。あの時は、月照だけが死に、西郷さんだけが命を取り留めるわけですが。

―一方、西郷には3人の妻がいます。最初の妻とは心を通い合わせられずに離婚し、奄美大島で地元の女性、愛加那との間に息子を儲ける。それが、菊次郎です。その後、糸という薩摩の女性を妻にしますね。

西郷さんに離婚歴が有ることはあまり知られていませんよね。奄美大島で自分の命を救ってくれた愛加那と出会い、はじめて心から女性を愛することを覚えます。彼女がいたからこそ、西郷さんは人の気持ちを思いやれる人物になっていったのではないかと考えました。ですから、奄美大島の場面は神話版「ボーイミーツガール」のつもりで書きました。

対して、最後の妻である糸は明治の薩摩の女という印象。つましくて賢い典型的な偉人の妻です。