佐々木さんは、21歳で特攻隊に選ばれました。陸軍第一回の特攻隊『万朶隊』でしたから、晴れがましい気持ちもあったと語ります。
初期の特攻は、優秀なパイロットが選ばれました。特に、海軍に対する対抗意識がありましたから、海軍に負けるな、なんとか見返してやるという意味でも、エリートが選ばれたのです。
が、同時に佐々木さんはなんともやりきれない切ない思いも持つのです。そして、優秀なパイロットとして、自分のプライドにかけて、船に体当たりすることを拒むのです。爆弾を落として船を沈めることが自分の仕事だと言って。
出撃のたびに、佐々木さんは戻ってきます。一度は大型船に爆弾を命中させて沈め、一度は至近爆発で船を小破させました。
けれど、上官達は許さないのです。「今度こそ死んでこい」とか「船ならなんでもいい」とか「爆弾を落としたあとそのまま突っ込め」と21歳の若僧に将校たち大人が面罵するのです。
けれど、佐々木さんは9回、戻ってきました。この精神力。この強さ。それは日本人離れをしていると言ってもいいと思います。
なぜ、こんなことができたのか。
天皇に報告したのだからお前は死ぬべきだという強烈な「同調圧力」を21歳の若者はなぜ拒否できたのか。
「攻撃することが目的なのではない。死ぬことが目的なのだ」という、命を消費し、集団の成果として謳い上げようとする特攻に21歳の若者がどうして抵抗し続けられたのか。
僕はどうしても知りたかったのです。だからこそ、2015年10月から5回も、92歳の佐々木さんに会いに行きました。
佐々木さんの強さを僕はインタビューで知ったと思いました。佐々木さんは、言葉では、「寿命」とか「ご先祖様」とか仰いましたが、もっと根本的なことを僕に教えてくれました。
「同調圧力」に対して、無茶な上官の命令に対して、どうして抵抗できたのか。それは、ぜひ、本書を読んでいただきたいと思います。
うかうかしていると、この国は同じ文法で迫ってきます。
佐々木さんのような若者や部下にだけではありません。世間の「所与性」にがんじがらめになって、「現実は変わらないんだ」「続けることが大切なんだ」「現状維持が目的なんだ」ということが組織の目的になるのです。
ブラック企業もサービス残業もいじめをなかったことにする学校も教育委員会も、すべては「命を消費する日本型組織」の典型的な症状です。誰もそれを本心からはよしとしないのに、変わらないものとして続いていく。
命を消費してはいけない。命は大切にしなければいけない。大切で当たり前のことを佐々木友次さんは教えてくれたのです。