精神科医だから心配する日本人の「心の健康」

第21回ゲスト:和田秀樹さん(前編)
島地 勝彦 プロフィール

拝金マンvs.島地マン

島地: 貯金残高を増やすことが快楽っていうのは、貧乏くさい話ですね。お金は使ってこそ生きるものなのに、それを知らないなんて、実に貧しい人生です。

日野: このシングルモルトと葉巻とパイプに囲まれた部屋にいると、島地さんの話が珍しく説得力を持ちますね。

和田: 島地さん、この中にはけっこう高価なボトルもあると思いますけど、見たところほとんど開栓してますよね。

島地: 当然です! 買ったら飲む。じゃないと、味がわからないでしょう。ここにあるすべてのボトルが開栓済みです。酒をただ飾っておくなんて趣味は、ぼくにはありません。

日野: 拝金マンの対局が「島地マン」ですからね。

和田: 素晴らしい。シングルモルトはそんなに詳しくありませんけど、ぼくの好きなワインの世界では、まれに拝金マンに天誅が下るときがあるんですよ。

名前は伏せますが、某総理夫人の実家に1800年代を含めたロマネコンティの膨大なコレクションがあったとか。もったいないから誰も飲まないでいて、当時はちゃんとしたセラーがなかったので蔵の中でずっと保管していたら、ほとんどが悪くなってしまったそうなんです。

島地: シングルモルトの世界では、古いコレクションを相続した人が、自分は飲まないからと売りに出すケースがけっこうあります。そういうのが、まわりまわってぼくの手元にやってくることもあるわけで、昔の貴重なボトルが今の時代に飲めるのは、拝金マンのおかげという面もあるんですけどね。

体の健康と心の健康

和田: ああ、なるほど。そういう考え方もできますか。葉巻に関しても同じことがいえそうですね。ちゃんと管理されていれば、ですが。

日野: 和田さんは喫煙に関してどういう立ち位置なんでしょうか。

和田: ぼく自身は味が好きではないので吸いませんが、ただそれだけのことで、他人の嗜好に干渉しようとは思いません。だからこうして、横で島地さんがバンバン葉巻を吸っていても嫌ではないんです。

今は社会全体がヒステリックになりすぎているような気がしますね。煙草を吸うか吸わないかは個人の自由であって、ましてや政治までもがしゃしゃり出てきてとやかく言うべきことではないと思います。

健康、健康はいいんだけど、みんな体の健康オタクになっていて、「心の健康」には無頓着なのではないでしょうか。もしも禁煙や禁酒がストレスになってしまうのなら、心の健康に悪影響が出るかもしれません。

「フィンランド症候群」という有名な話があります。生活レベルが似ている40代の男性を禁煙も飲酒もそれぞれ好きなようにさせたグループと、禁煙と運動を義務付け、少しでも異常値があれば薬を処方したグループの2つに分けて、それぞれの15年後を比較すると、病死も自殺も発病も後者のほうが多かった、という実験です。

島地: 有名な研究データですよね。何かを義務付けられたり制限されること自体がストレスになって免疫力が下がる、という可能性もあるわけだ。

和田: 具体的に何がどう作用しているのかはわかりませんが、心の健康が、みんなが想像している以上に大きな要因なのは間違いないと思います。

島地: じゃあここからは、そのへんの専門分野についてうかがっていきましょう。

後編につづく

(構成:小野塚久男/写真:峯竜也)

和田秀樹(わだ・ひでき)
1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒、精神科医。国際医療福祉大学大学院教授、川崎幸病院精神科顧問、和田秀樹こころと体のクリニック院長。メンタルケアに関する著書多数。また、受験・教育の論客として知られ、『テレビの大罪』(新潮新書)『この国の息苦しさの正体』(朝日新書)ほか、社会時評にも定評がある。映画監督としても活躍し、『受験のシンデレラ』は、2007年度モナコ国際映画祭で最優秀作品賞など4冠に輝いた。