精神科医だから心配する日本人の「心の健康」

第21回ゲスト:和田秀樹さん(前編)
島地 勝彦 プロフィール

日本の経済政策に欠けている視点

日野: そりゃあ島地さんの頃とは時代が違うんだから、仕方ないでしょう。

和田: 時代の違いだけでは片づけられない、けっこう根が深い問題だと思いますよ。部数が減る→経費削減→記事の質が下がる→さらに部数が減る……そんな負のスパイラルに陥っている部分もあるのではないでしょうか。

島地: おお、そこはワダ先生の見解が気になるところですね。もうちょっと聞かせてください。

和田: これは出版に限らずどの業界も同じなんですが、従来の成功体験の延長で市場を見ているからうまくいかないんです。今、世界では心理学的な視点を経済に応用する流れがありまして、今年のノーベル経済学賞を受賞したのも、行動経済学が専門のリチャード・セイラーでした。

島地: 人間の行動に潜む心理から経済を見る、というわけか。

和田: 例えば、今、日本の内需がいまいち冴えないのは、何が原因だと思いますか?

島地: ほれ、日野。

日野: また、自信ないとすぐこっちにふる……。えーと、給料が上がらないから?

和田: じゃあ、月給が5000円上がったら、今よりばんばん消費しますか?

日野: んー、5000円や1万円ぐらいじゃあまり気分がアガらないですね。

和田: そう、そこです。ほんのちょっと給料が上がるくらいじゃ気分がアガらない。つまり、それでは誰もお金を使おうというメンタルにならないんです。減税も同じことで、ちょっとぐらい減税したからといって、それですぐに消費が伸びるわけじゃない。

そこで行動経済学的にいうと、「人間は得するよりも損するほうに敏感に反応する」となります。

島地: なるほどね。昇給や減税でほんの少し得するといわれても、あまりピンと来ないからな。

世にはびこる守銭奴どもに鉄槌を!

和田: それなら逆に増税してしまって、その代り経費をどんどん認めるようにすればいいんですよ。切り詰めるよりも使わないと損、みたいなメンタルになれば、人も会社もお金を使うようになるんじゃないでしょうか。

島地: すばらしい! 大賛成です! ぼくは昔、経費で年間ウン億円使ったことがありますが、せっせと使ったからこそみんなやる気になり、100万部も売れていたわけです。

日野: それはちょっと、自分に都合が良すぎる解釈のような…。でも今しか知らないぼくらにとっては、うらやましい時代です、ほんとに。

島地: まあ、今のヤツらは昔と違って金の使い方も遊び方も知らない。というか、先輩からちゃんと教えられていないから、かわいそうな部分はあるんだよ。

ところで、今の日本は景気がいいのか悪いのか、よくわからなくなります。企業の過去最高収益のニュースがあったり、株価がどんどん上がったりする一方で、身のまわりには昔のように「羽振りがいい人」がいるわけじゃない。どう考えたらいいのでしょう。

和田: 国の政策が、一部の大企業と富裕層を優遇する方向に向かっていますからね。どうやら、大企業と富裕層を儲けさせると、そのおこぼれが下々にも行き渡る、という幻想を抱いているようです。

たしかに昔はそういう循環もあったかもしれない。でも今は、大企業や富裕層は自分の懐をふくらませるだけで、還元しようという発想がないでしょう。

島地: ノブレス・オブリージュの精神は、日本では根づきませんか。

和田: 経済が右肩上がりの頃は、将来に不安がなかったら、金や地位より名誉を重んじる人たちもいたと思います。でも今は、国を牛耳っている政治家も官僚も大企業も、私にいわせればみんな「拝金マン」です。

小金をせっせと貯め込んで、通帳の残高が増えていくのだけをよろこびにしている人が多すぎるんです。ぼくが原作を書くから、どこかで『それ逝け! 拝金マン』という漫画を連載してくれないかな。