深夜ドラマ『セトウツミ』に私がドップリはまった理由

何も起こらないという衝撃
堀井 憲一郎 プロフィール

人生はそんなものだよな

私はこの第1回冒頭の「ジャパン・レールウェイ」のやりとりが、とても気に入ってしまった。そういう言い方したことがなかったなあとおもって、そのあと、何度か「じゃあ、ジャパン・レールウェイの改札で」と待ち合わせ場所を指定したりしてみた。

予想どおり、ほぼ誰も反応してくれない。スルーしてくれた。どうやら私は完全に瀬戸&内海サイドの人間のようだ。

どーでもいい話と、どーでもいい間合いによって、私はセトウツミの世界にふっと取り込まれてしまったのだろう。

ほかにも、不思議なキャラクターが何人か出てくる。

瀬戸のことが好きで瀬戸の前ではすごく小さい声でしか話せない高1の女子ハツ美ちゃんとか(そのくせ他人に向かってはめっちゃ口が悪いし、年上にもタメ口、髪型がすごい変)、顔が平凡すぎて覚えられない野球部の馬場(毎回顔はぼやけた処理されているので、視聴者も顔が覚えられないというか、わからない)、岡山からきて親戚の家に下宿しいる蒲生(下駄履きで何だかバンカラ)、左右対称の田中真二くん、瀬戸のおかん(ヒョウ柄の服を着てる)、瀬戸と同じクラスの美少女の樫村さん(お寺の娘、瀬戸は樫村さんが好きだが、樫村さんは内海が好き)などなど。

このへんの人たちがてきとーに出てきて、どうでもいい話が展開される。

あらためて、『サザエさん』ぽいとおもう。たいした問題も事件もなく、戦う巨大な敵も、解決するべき大きなトラブルもない。でもまあ人生はそんなものだよな、とおもう。

ただ、ぼんやり見てるだけで、楽しい。やや和む。そういうドラマである。

金曜の深夜にやっている。終わってしまうのが残念である。そんなことおもったドラマはずいぶん久しぶりだ。サザエさんみたく永遠にやればいいのに、とおもう。(サザエさんも永遠にはやらんけどな、とウツミなら言ってくれそう)。

 

浅野忠信の味わい

あと今クールのドラマでは『刑事ゆがみ』も好きです。

刑事ドラマ。浅野忠信と神木隆之介がバディ。

この、浅野忠信がいい。だらっとしていて、やる気なさそうだけど、でもきちんと仕事する刑事。わりと類型的な刑事像だけど、でもその類型を越えて、いい。ひたすら浅野忠信の味わいだとおもう。

真面目で若い神木隆之介を巻き込んで、やばい捜査で事件を解決していく。

でも事件とか、解決とかはまったくどうでもよくて(私はどうでもいいです)ただ、浅野の神木のやりとりが楽しい。それが見ていたい。ずいぶん前にそういう気持ちで刑事ものを見ていたことがあったなとおもいだしてみたら、松田優作と中村雅俊のバディものでした。

『俺たちの勲章』。1975年の4月ドラマだった。巨人戦が中継されると休みになっていた。

松田優作の傍若無人な捜査ぶりと、真面目な中村雅俊のやりとりが好きでした。

それ以来だな、とふとおもったまでです。刑事ドラマは、事件の解決なんてどうでもよくて、その過程の刑事の姿を見たいだけなんだな、とあらためておもいました。

シリーズ通しての巨大な敵なんかとは戦わなくていいんだけど、まあ、浅野忠信が戦うっていうんなら、それはそれでもいいです。これは、なんとなく、今クールだけで終わるのがいいなあ、とおもう。仁科貴って川谷拓三そっくりだねえともおもって見てる。

『刑事ゆがみ』と『セトウツミ』は、見ていてあまり緊張しないところがいい。そんなドラマが2つも拾えて、いいクールでした。

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