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# 成年後見制度 # 介護

役所が虐待と決めつけた86歳女性が連れ去られるまで

成年後見制度の深い闇 第14回

「えっ、あなた私を虐待してるの?」

三女・光代さん「私、お母さんのこと虐待してるってずっと言われてたし」
母・晶子さん「えっ、虐待してるって?(注・当惑して)……あなた、虐待したことあるの?
三女・光代さん「知らないよ(笑)。私はないと思うけど」
母・晶子さん「私、虐待してるとは思わないよ?(光代は私の介護を)一生懸命やっている」

これは自分の知らないうちに成年後見人(弁護士2名)をつけられ、財産権を奪われた東京・目黒区在住の澤田晶子さん(86歳・仮名)と、三女の光代さん(50歳・仮名)の会話である。

この母娘を襲った理不尽すぎる状況について、私はこのところ連続して取り上げてきたのだが、あらためて彼女たちの状況を簡単にご説明したい。

 

次の動画は、母・晶子さんが、勝手に後見人をつけられたことへのやり場のない憤りを切々と語ったものだ。見ているこちらもつらくなってくる映像だが、ぜひ一度ご覧いただきたい。YouTubeでは右のURLになる(https://youtu.be/pdbaCp7m0ZA)。

三女の光代さんは、両親を在宅介護するため、仕事を辞めた。結婚して別世帯に暮らす二人の姉は、当初から「介護が必要になったら施設に入れるべき」と主張していたが、両親も在宅介護を強く望んだため、渋々同意していた。

不幸な家族内での意見対立の芽が、一家の中にはあったと言っていい。

2016年暮れに父親が大動脈瘤破裂で急死したのを受け、長女は「実家で三女・光代さんと暮らしたい」という母・晶子さんの意向を無視して、晶子さん本人にも、三女・光代さんにも相談することもなく、東京家庭裁判所に母・晶子さんに後見人をつけたいと勝手に申し立ててしまった。

繰り返すが、ここまでは家族間のトラブルだったとみてよいだろう。

ところが、である。東京家裁は2017年2月21日、母・晶子さんの状況を調査することもなく、また法に定められた精神鑑定や陳述を聞く機会を設けることもせず、後見人をつける審判(後見開始の審判)を出してしまった。

母・晶子さん本人も、同居して世話を続けてきた三女・光代さんも、そんな審判が行われていることすら、知らなかったのである。

この後見開始の審判は、3月9日に正式に確定した。晶子さん・光代さん母娘がそのことを知ったのは3月27日になってからだ。後見人に選任された弁護士から、唐突に就任挨拶を受けたのがきっかけだった。

この一連の経緯は、裁判所が本来必要な手続きを次々とスキップして、手早く後見審判を済ませてしまおうとする「手続き飛ばし」という根深い問題と、成年後見制度の「制度欠陥」といってもいい抜け穴の存在を示している。

この「手続き飛ばし」については、こちらの記事で詳述したので、ぜひご一読いただきたい。現代ビジネス<86歳女性に勝手に後見人をつけて連れ去った冷酷な裁判所>http://gendai.ismedia.jp/articles/-/53606

おかしいのは裁判所だけではなかった

冒頭のやり取りは、3月28日夜、勝手に後見人をつけられたことを知って涙する母・晶子さんの様子である。

晶子さんは、長女や家裁が、自分の意見すら聞かずに、頭越しに後見人をつけたことに「裁判所がなんで、ねえ? 片方だけ(の意見)しか聞かないで。私のことも何も聞かないで、そういう勝手なことしたかね?」と涙ながらに話していた。

だが、今回お伝えしたい出来事が起きたのは、この半年後のことだ。

9月21日、母・晶子さんは三女・光代さんの前から忽然と姿を消してしまう

なんと、成年後見人である弁護士2名と、親族間のトラブルで意見の対立している長女・次女が、三女・光代さんの知らないうちに、母・晶子さんをどこかに連れ去ってしまったのである。

そして、その「連れ去り」を支援したのが、晶子さん・光代さん母娘が住む、東京・目黒区の区役所だったのだ。

なぜ、役所は「後見人など必要なく、自分は三女と生活したい」と涙ながらに訴えてきた86歳の女性を連れ去るお膳立てに協力したのか。連れ去りの具体的な経緯を見てみよう。

冒頭の映像にも収録されていたように、三女・光代さんによると、長女と次女は「光代さんが母親を虐待している」と主張、そのことを後見人や目黒区にも伝えているようだったという。

だが一方で、動画を見れば明らかなように、母・晶子さんは自分が虐待を受けていると言われたことについて、驚き、戸惑っていた。

しかし、裁判所同様、母・晶子さんの状況を詳しく調査したわけでもない後見人と目黒区は、虐待という話をあたまから信じてしまったのだと考えられる。

問題の9月12日。母・晶子さんは自宅から、いつも通っているデイサービスに出かけた。デイサービスの職員は、その日の模様を次のように説明している(筆者は三女・光代さんが聞き取りをしたデイサービス職員の証言音声を確認した)。

この日の朝、デイサービスの事務所には一本の電話がかかってきた。

発信者は、目黒区役所・高齢福祉課の職員だった。用件のようなものだ。

「(本日)そちらに、後見人と姉二人(晶子さんの長女・次女)が行くので、母親と面会させてほしい。これは区からの要望なので拒否しないでほしい

また三女には、このことを伝えないでほしい

このあと、念を押すように、同様の内容の電話が再びかかってきたという。計2回も区役所が事前連絡をしてきたわけだ。