リモノフは栗色の髪の毛を七三分けにし、エメラルドグリーンの瞳が印象的だった。
渡された名刺には「一等書記官」と書かれていた。
![[写真]水谷氏が描いたリモノフ一等書記官の似顔絵(提供:竹内明)](https://gendai.ismcdn.jp/mwimgs/0/8/-/img_08483322bfe66c0240a0fc514f9652bb206122.jpg)
三人で近くのコーヒーショップに行くと、紹介した記者が言った。
「水谷さんも情報収集しているのであれば、リモノフさんと知り合いになっておくのがいいですよ」
当時、内閣情報調査室長(現在は内閣情報官)からは「外部の人間と飯を食え」と強く推奨されていた。
同僚と昼食をとるくらいなら、外部の人脈を開拓して、情報をとって来いという、情報マンとしては至極当たり前の指示だったが、中途採用組の水谷には、毎日の相手探しは苦痛だった。リモノフはまさに渡りに船だ。
「こちらも大歓迎ですよ」水谷はこう応じた。
日本語もうまく、立ち振る舞いも洗練されている。さすがに外交官だな。水谷はこう思った。これが8年間続く、壮大な罠の入り口だった。
「ロシアと中国の関係は深いので、リモノフから中国の情報を聞き出すことができるかもしれない、と思いました。
でも、今思うと、あの出会いは仕組まれていたのです。K通信社のO記者とは別の昼食会で知り合いました。その後、O記者と2回、会ったあと、あの日のセミナーに誘われリモノフを紹介されたのです。
O記者はリモノフの正体を知った上で、私と引き合わせたような気がしてならないのです」(水谷氏)