貴乃花と日馬富士、被害者が悪者になる「バカげた事件」の不快さ

横綱に媚びる道徳なんていらない!
原田 隆之 プロフィール

理事会という伏魔殿

そして、極めつけが、中間発表と同日に開催された相撲協会の理事会でのやり取りである。理事会は、貴乃花親方が久しぶりに公の場所に姿を見せ、八角理事長や伊勢ケ浜親方と顔を合わせるとあって、大きな注目を集めた。

理事会では、聴取に協力しない貴乃花親方に対して、複数の理事が詰め寄り、翻意するよう説得したという。まさに、多勢に無勢の有様である。

マスコミ報道も、貴乃花親方の「頑固さ」ばかりをクローズアップしているが、この風景もなんとも異様である。貴乃花親方は、被害者側であって、被害者を守る立場である。

彼は、繰り返し「この一件は、もはや関取同士の内輪もめという範疇を超えているから、警察に届けを出し、その捜査を優先する」と主張しているだけなのに、そのどこがおかしいのだろうか。

それに、これまで述べてきたように、明らかに「加害者寄り」の相撲協会を信用して事情聴取に応じろと言われて、「はいそうですか」と言えるはずがない。

 

理事会では、冬巡業から巡業部長である貴乃花親方を外すことが決定されたという。これは、親方への「処分」ではないことが強調されていたが、寄ってたかっていじめをしているように見えてしまう。

また、それで恐れるのが、今後の貴ノ岩への風当たりである。これまで相撲協会が描いてきたのは、「悪者の貴ノ岩のせいで、後輩思いの熱血漢、日馬富士が引退に追いやられた」というストーリーである。

だとすると、貴ノ岩はこの後、相撲の世界に居づらくなって、居場所がなくなってしまうのではないか、まさにいじめのようなことが起こってしまうのではないかと危惧してしまう。

〔PHOTO〕gettyimages

加害者と被害者が逆転する

この国では、弱い者が声を上げたり、虐げられた者が自分の権利を主張したりすると、煙たがられ、悪者扱いされることがよく起こる。

あるスポーツ新聞では、貴乃花親方を吉良上野介になぞらえていた。だとすると日馬富士やその取り巻き連中は、日本を代表する悲劇のヒーロー、赤穂浪士だと言いたいのだろうか。そして、その記事は、赤穂浪士は切腹、吉良は無罪放免だったことを取り上げ、「『喧嘩両成敗』の知恵に学びたい」と結ぶ。

貴乃花親方を「稀代の悪人」イメージの代表格である吉良上野介になぞらえ、喧嘩両成敗にすべきということは、つまり日馬富士は「切腹」したのだから、貴乃花親方も無罪放免にはせず、彼も罰するべきだと言いたいのだろうか。

季節はもう12月。まさに忠臣蔵の季節である。あの時代には、忠君という道徳が最高の美徳であり、主君のために仇を切りつけた赤穂浪士はヒーローになった。しかし、妙なアナクロニズムを持ち出して、話を捻じ曲げないでほしい。

相撲協会や横綱に媚びへつらう道徳などいらないし、被害者と加害者を逆転させるような馬鹿げたことは、厳に慎むべきである。