毛皮からファーへ、呼び方と売り方の変化

素材の呼び方の変化についても触れておこう。

以前は動物の皮に毛がくっついた素材は「毛皮」だった。しかし、いつからか、おしゃれに「ファー」と呼ばれるようになった。

「毛皮」は動物の犠牲があることが生々しく伝わり、かわいく聞こえる「ファー」にすると犠牲になった動物を想像しにくくなり受け入れやすくなるという効果を持っていた。

毛皮を売りたい業者側は、総毛皮からトリムに、帽子に、ボリュームファーに、ヘアアクセに、チャームに、女性用から男性用に、若者向けから高齢者向けにと、売り方を次々に変えてきた。

さらに値段もどんどん安くなっており、今や100円ショップでも購入できるし、エコファーのほうが高いことだってある。

この次々に変わる売り方は業界の狙い通り機能し、多くの人が動物の毛皮だと思わずにリアルファーの付いた製品を購入した。

私たちが街頭でチラシを配っていると「わたしも毛皮反対です!」と力強く言ってくれるその女性の襟元やキーホルダーにはリアルファーがくっついていて、私たちが言いにくそうに「あなたのそれ、毛皮なんです……」と告げ、ショックを与えてしまうということが今でもよくある。

日本の最後の毛皮農場(閉鎖済み)(PHOTO:アニマルライツセンター)

エコファーへのシフト

動物の毛皮の代用品となるフェイクファーの呼び方も変わった。今はエコファーと呼ばれる。エコファーがエコである理由は、リアルファーがあまりにも環境負荷が重いことだ。

そもそも、リアルファーには2つの問題点がある。

1. 生態系を破壊してきた

世界中で、毛皮のために養殖されていた外来種の動物が逃げ出し、地域の生態系を破壊している。日本でもヌートリア、アメリカミンクの(税金を使った)殺処分が続いているが、もともとは毛皮農場から逃げ出したものだ。

日本はこの外来生物を規制する法律制定後、わずかに残っていた毛皮農場が次々閉鎖し、昨年最後の毛皮農場が閉鎖したところだ。閉鎖したからといって、破壊された生態系は元には戻らない。

なによりも今も殺処分され続ける野生動物たちの命に対し、どう責任を取るのか……。

(PHOTO:アニマルライツセンター)

2. なめし加工による公害

毛皮は死体の一部だから、脂肪をこそげ落として洗ったとしても、ほうっておけばパリパリに固くなり、下手をすれば腐る。柔らかくし、腐らないように加工するのが皮革・毛皮の"なめし"。

大量の皮と毛皮をなめすために、発癌性の高い六価クロムやホルムアルデヒドなどが使われる。排出規制などが強い欧州では、なめしは中国に輸送してから行っているという。

そのなめし加工の中心となっている中国では深刻な環境汚染、健康被害が広がっている。危険な物質により河川や地下水、土壌が汚染され、子供までもが癌で死んでしまう悲惨な公害が発生しており、その地域は「癌の村」と呼ばれる。

皮革・毛皮加工産業が集中する地域は、浙江省、広東省、河北省、山東省などやや交通の便の良い地域に多く、私も河北省の皮革産業の街、辛集市を訪れたことがある。

立派なビルが並ぶエリアから少し離れたところに、たくさんの中小の工場がある。それらを囲んでいるのは一般の村と畑。川は真っ黒で強烈な異臭を放ち、魚や鳥が住める環境ではまったくなかった。この地域では毎年のように現地の人が健康被害を訴えデモを行っている。

現地の人々の意識は低く、労働者も毛皮を洗浄する水で体を洗ったり、毛皮の上を子供たちが遊びまわったりしているショッキングな映像がドイツの2015年のドキュメンタリー映画や中国のジャーナリストの写真で伝えられた。

汚染されているであろう毛皮や革のカスもいたるところに捨てられていた。行政も下水処理場を設置するなどの努力をしているようだが、今更……と言いたくなるほど汚染は進んでいる。

この公害に加担することは企業にとっては最大のリスクであろう。

幸いエコファーはどんどん進化を遂げ、もはや見た目ではわからないことも多い。この精巧なエコファーは日本の技術と丁寧な仕事ぶりが光る分野であり、和歌山県の伝統工芸であったパイル織物が活躍している。

プラダやルイ・ヴィトンなどの世界のラグジュアリーブランドのエコファーを日本の技術が支えているというのだから、同じ日本人として誇らしい気持ちにもなる。

動物の犠牲を無くしたいという消費者の選択が、新たなエシカルな産業を支えているのだ。