日本の城がいつ見ても美しいのは、驚異の「伝統素材」のおかげだった

最新科学でヒミツを解き明かす
萩原 さちこ プロフィール

「C14放射性炭素年代測定法」と「年輪年代測定法」とは?

C14放射性炭素年代測定法は、炭素の放射性同位体(=C14)の値を利用した年代測定法だ。C14は生物の生命活動の終了と同時に生成されなくなり、放射性元素の崩壊の割合に沿って規則的に減っていく性質がある。よって、調べたい生命体のC14の値を測定すれば、生命体の死後どれくらいの時間が経過しているかがわかるのだ。

木の場合、年輪は外側に向けて1年ずつ増えていく。そのため、中心と外側でC14の値に違いが生じる。そこで、年輪を数えて複数の場所の試料を計測し、「暦年較正曲線」と呼ばれる年代測定のものさしを作成する。そのものさしと調査対象である木材の計測結果と比較すれば、年代が推定できるというわけだ。

一方の年輪年代測定法は、年輪の変化を利用した画期的な測定法だ。年輪パターンの分析により樹木の年代を1年単位で推定できるため、正確な年代決定のために併用される。各年輪が形成された年を1年単位で決定でき、得られた年代に誤差がないという点においては、自然科学的年代測定の中でもすぐれた方法といえるだろう。

毎年一層ずつ形成される樹木の年輪の幅は、気象条件に影響される。しかし、同じ地域・時代に成長した木々ならば、刻まれた年輪パターンも類似したものとなる。そのため、年輪パターンの変化をグラフ化したものと調査対象の年輪パターンを照合すれば、切り出された年が1年単位で判明する。

年代のものさしとなる「標準年輪曲線」は、日本では檜、杉、高野槙、檜葉で作成されており、すでに約3000年分が存在している。

 

科学が歴史の真実を解き明かす

こうした自然科学的調査の結果は、天守の創建年代を絞り、改変や修理の歴史を解き明かす大きな証拠になる。2015(平成27)年7月に国宝に指定された松江城(島根県松江市)の天守における調査・研究でも、C14年輪年代測定法と年輪年代測定法が用いられ、部材の転用を裏付ける重大な成果があった。創建時のものとみられる天守の古材を調べたところ、95%の確率で1598~1627年、99%の確率で1594~1636年の伐採年代という結果が出たのだ。

松江城(Photo by gettyimages)

あくまで樹木の伐採年代であり建造年には直結しないが、城を築いた堀尾氏が築城前に入った富田城(島根県安来市)から部材を運び入れた可能性を高める大きな要因となった。今後、文献史料や発掘調査による考古学的な研究成果と照合することで、謎が解き明かされていくのだろう。

また、富田城をはじめ近隣の城や築城者ゆかりの城、さらには寺院建築や民家との共通点を探るなどさまざまな観点からの調査・研究が進めば、知られざる松江城の真実が浮かび上がってくるはずだ。

そのほか、国宝化を目指す丸岡城(福井県坂井市)の天守でも、これまで不明だった創建年代の特定につながる、有意義な調査結果が出ている。福井県内ではじめて、中世近世移行期前の建造物への東北産の木材の使用が科学的に証明されたことも興味深い。江戸時代に入り日本海海路による流通が活発化する以前に、北陸と東北のつながりがあったことを示す証拠のひとつとなるのだ。

自然科学的調査は、城や歴史の真実解明に光を照らしはじめている。もちろん科学的な視点だけではすべては解明されないが、定説を覆し歴史を塗り替える大発見につながる可能性は十分にある。科学が私たちにどんな新知見を届けてくれるのか、期待はふくらむばかりなのである。

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