天使か悪魔か?「デジタル錠剤」で抗精神病薬の飲み忘れが監視される

錠剤の中にセンサーが!?
美馬 達哉 プロフィール

だが、この点がまさに精神障害者の本人たちの側から見れば、監視や強制医療であって人権侵害につながるものとなる。

たとえば、米国での精神障害者たちの団体は、在宅での服薬指導を行う地域包括ケアでさえも、障害者が自分自身の判断で医療を拒否する権利と自由の侵害として強く反対している。

また、高名な生命倫理学者のアーサー・カプランは、強制入院させられていた精神障害者が退院の条件として、治療継続をデジタル錠剤で確認することを要求される可能性を指摘している。

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医療の主役は誰なのか

デジタル医薬品についてかなり辛口の意見を紹介した。背景にある経済的利害や精神疾患への差別という問題だ。

だが、もちろんデジタル錠剤のテクノロジーはうまく使えばすばらしい可能性も持っている。

たとえば、認知症のある高齢者が他の慢性疾患の薬物治療を続けながら独居することへの支援に役立つこともあり得る。さらには、血圧や心拍や体温を測る他の人体センサーと組み合わせて、リスクの高い医薬品の副作用モニタリングにも使えるかもしれない。

どんな用法にせよ忘れてはならないのは、患者さん本人の意思が一番だということだ。

 

服薬遵守の歴史を研究した社会学者のジェームズ・トロストルは、医療者たちが医療施設外の一般社会の中での患者の行動を監視したりコントロールしたりすることを批判的にみている。医療の専門家だけが過剰な力を持つことは民主的な社会を損なうかもしれないからだ。

歴史をさかのぼれば、病院やクリニックでの医療者による処方が行われるはるか昔から、人間は薬草や薬品を手に入れて自分の判断に基づいて使ってきた。

そもそも医療は、医療者が与えるものではなく、患者が自分で決めるべきものなのである。