天使か悪魔か?「デジタル錠剤」で抗精神病薬の飲み忘れが監視される

錠剤の中にセンサーが!?
美馬 達哉 プロフィール

「デジタル錠剤」誕生の理由

2014年のエビリファイの世界総売り上げは約92億ドルで、世界全体の処方薬(処方箋の必要な医薬品)売り上げのおよそ1%に達していた。

医薬品業界では10億ドル以上の売り上げのある製品をブロックバスター(もとは大型爆弾という意味)と呼んでいる。研究開発費を大きく上回る利益を上げて、一つの医薬品の売り上げだけでも一社を支えるぐらいに達するともいわれている。

エビリファイはそうしたブロックバスター医薬品の一つとして世界医薬品売り上げベストテンの常連だった。ただし、「だった」と過去形で書いたのには理由がある。

2015年にエビリファイは米国での製造特許切れを迎えたからだ。そうすると、日本でも知られるようになったジェネリック医薬品の製造販売が可能になる。

ジェネリック薬とは後発薬とも呼ばれ、年数が経って特許の切れた医薬品と同じ化学物質を別の製薬企業が(特許料無しで)安価に製造販売するものを指している。

この場合、2015年からブランド名の医薬品と同じ化学物質(アリピプラゾール)を他の製薬企業が販売し始めたのである。

その結果、米国内でのエビリファイ売り上げは2014年のおよそ40億ドルから2015年には半減し2016年には最盛期の10分の1の3億ドル台となった。

逆に言えば、新薬の価格については、次の研究開発を推進するために、それだけ破格に優遇されているということだ。

特許切れすること自体は、医薬品が値下がりする結果を生み出すのだから、患者個人にとっても保険財政上も好ましいことだ。

製薬企業としても、ブロックバスター医薬品の売り上げで研究開発して次の優れた製品を成功裏に作っていれば問題はないだろう。といっても、新規製品の研究開発はそう思惑通り進むものではない。

そこで、既存の医薬品をブランド医薬品として再度の差別化を図るために、アリピプラゾールにセンサーを組み込んでデジタル錠剤にする特許という合わせ技が必要となった、というのは読み込みすぎだろうか。

 

医者と患者の「意識のギャップ」

精神疾患の薬が世界初のデジタル錠剤になった理由のもう一つは、精神疾患の治療のもつ特殊性がある。

かなり啓発は進んできたものの、精神疾患は現在でも社会的に差別されることの多い疾患である。そのため、自分が精神疾患であるとは認めたくない患者さんは少しでも精神的不調が良くなると治ったと考える。

その結果、患者さんは精神科に通わなくなり、抗精神病薬を飲み続けることを中断してしまう。運良くそのまま状態が安定することもあれば、病状が悪化して再発することもあるだろう。

また、病状が悪くて判断力が落ちているとか、薬の副作用でひどい目にあったとか、さまざまな理由から抗精神病薬を飲むことを拒否する患者さんもいる。

医療者の側から見れば、精神疾患の再発や悪化を防ぐために処方箋通りに医薬品を服用してもらう必要がある(医学界では「服薬遵守」、「コンプライアンス」、「アドヒアランス」と呼ばれている)。

精神科領域ではとくにこの医療者と患者さんの間の考え方のギャップは大きいことがあり、処方箋通りに服薬できたかどうかの確認は大きな問題となる。

入院中であれば服薬したかどうかを医療者が確認することは簡単だが、退院してしまえばそうはいかない。訪問してきめ細かくチェックするとしても限界があるだろう。そこで、デジタル錠剤の出番となる。