地方創生「人口減少は自治体の責任」が詭弁と言えるこれだけの証拠

政府の失敗を押しつけるなんて…
今井 照 プロフィール

非正規化、所得減は「失政」の産物

ここまで見てきたように、若年世代にとって子どもを産み育てる客観的環境は悪化しています。結婚観など社会意識の変化は間違いなくあると思いますが、客観的環境の変化が社会意識に影響を与えている面もあるはずです。(※編集部注 結婚観の変化については、赤川学『家族はコスパが悪すぎる?結婚しない若者たち、結婚教の信者たち』を参照)

出生数の「第三の山」が幻に終わったのは、結婚や出産を希望する人たちがいてもそれができない環境になってしまったことが原因の一つと言えます。

ちなみに、非正規雇用と晩婚化、未婚化がリンクしていることは、専門家の間ではすでに定説になっています。にもかかわらず、国は経済活性化のためと称して、雇用の流動化を進め、晩婚化、非婚化の要員を作り続けている。

 

そもそも90年代後半から2000年代にかけて非正規化が進んだのはなぜなのか。象徴的なのは、人材派遣を労働力の受給調整として位置づけた「労働者派遣法」の施行とその後の推移です。

1985年に成立し、翌86年に施行された同法に対しては、その成立前から批判や危惧がありましたが、政府は「専門的業務」に適用を限定し、人材派遣業を規制するものと説明していました。しかし、実態は「事務機器操作」「ファイリング」などIT化の進展とともに、主として若年労働者が担う業務から派遣職員・従業員化されていくことになったのです。

さらに、制定時に対象とされた13種類の業務は順次拡大され、1996年の法改正では26種類になります。1999年には、対象業務を規定するのではなくて、適用対象とならない業務を限定列挙するように逆転させ、一部の特例を除いてすべての業務に派遣を可能とする「原則自由化」が行われました。

この結果、厚生労働省の研究会は、労働者派遣法の趣旨と派遣労働者の保護とが両立しない場合があると指摘せざるを得ない事態に陥ります。研究会の報告書には、労働者派遣法は派遣労働者を保護するのではなく、すでに正規職員である人たちを保護するための法律だったと明記されているのですが、これはより正確に言うなら経営者側を保護したということでしょう。

これらの政策の背後にあるのは財界の意向です。1995年に日経連(2002年に経団連と統合)が発表した提言「新時代の『日本的経営』」における「雇用ポートフォリオ」論が、非正規雇用拡大の狼煙を上げたものとして知られています。こうして90年代後半から2000年代前半にかけ、「雇用の流動化」政策が積極的に推進されてゆくのです。

企業が非正規化を進めようとする場合、その時点の正規職員を非正規化するのは難しいので、新たに採用する若年世代から非正規化することになります。団塊ジュニア世代が成人して子育て世代になろうという時期、まさにそのような形で若年世代の非正規化が進められ、彼ら彼女らは雇用構造の変化の影響をもろにかぶることになったのです。

「多様な働き方」という甘い言葉

ただし、ここで注意しておきたいのは、「多様な働き方」については労働者自身も求めていたということです。個々の事情に応じて労働時間をフレキシブルに設定できることや転職が容易にできることは、労働者にとっても大きなメリットがあるのです。

しかし、日本の労働慣行や社会保険制度のもとでは、同じ仕事をしても時間当たりの給料が極端に違ったり、適用される社会保険制度が異なったりするなど、雇用形態によって処遇が大きく異なる。それを放置したまま「多様な働き方」だけ導入しては、得られるメリットよりも雇用形態による格差のほうが大きくなってしまいます。

この「多様な働き方」のように、キャッチフレーズは同じでも行きつく先は正反対ということはよくあります。安倍政権も「同一労働同一賃金」「働き方改革」「女性活躍社会」など、あたかも労働党政権のようなキャッチフレーズをいくつも掲げていますが、その前提となる環境や条件を整備したり、新たに規制したりすることを同時に進める必要があるのです。

いずれにしても、90年代後半から2000年代にかけて起きた若年世代の貧困化は、このように積み重ねられた失政の産物です。結果として、第三のベビーブームは起こらず、これからの日本は高齢化が加速して人口構成のひずみが急拡大することになりそうです。

日本の将来を規定する政策の失敗は、実は意外なほど近い過去に起こったことなのです。そのために、日本では先進国のなかで「最も急速に」人口減少が進もうとしています。これまで政府はさまざまな少子化対策を導入してきましたが、その一方で同じ政府が少子化を促進する政策を推し進めてきたことになります。そして、たび重なる失敗の責任を、政府はいま「地方創生」という美しい名のもとに自治体に負わせようとしているのです。

<次回「自治体は地方活性化に手を出すな(仮)」につづく>

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