家族はコスパが悪すぎる?結婚しない若者たち、結婚教の信者たち

超ソロ・生涯未婚時代をどう生きるか
赤川 学 プロフィール

家族はコスパが悪い

もう一冊は、家族社会学を専攻する永田夏来氏が、20年に及ぶ研究成果を世に問うた『生涯未婚時代』(イースト新書)である。

彼女の問題意識は、「画一的な家族のあり方を批判し、家族の多様性を主張していた家族社会学が、『結婚して家族を作るべきだ』『家族とは本来良いものだ』といった話に引きずられて、学問ならではのニュートラルな視点を失っている(p.4)」という、学界に対する現状告発をも含んでいる。同業に属する筆者も、共感するところ大である。

荒川氏同様、永田氏も「結婚を人生設計に組み込まない若者の登場」を射程に収めているが、結婚を目標やゴールと考える「ドラクエ人生」、結婚するかどうかは場合によると考える「ポケモン人生」を分けているのが特徴的だ。

〔PHOTO〕iStock

ドラクエ人生とは、人生にはしかるべきタイミングで進行する標準的なルートとゴールがあり、一度つまずいたらそこで停止してしまう、「昭和の人生すごろく」的一本道の人生観である。

これに対しポケモン人生は、一通りのストーリーを終えた後がむしろ本番で、対戦しながらレベルを上げたり、コンプリートを目指したりすることになるという。

ゲームに詳しくない筆者がいうのも何だが、これは標準的ルートも終局もない、ゲームの過程そのものが快楽となるゲームなのであろう。

永田氏は、地方暮らしの若者にみられる「ほどほどパラダイス」がポケモン人生に該当するというが、ひと頃流行った「マイルド・ヤンキー」もこれに通じるものがあるはずだ。

 

本書の後半で永田氏は、家族は本質的にコストパフォーマンスが悪いため、コスパや合理的計算で考えると結婚はかえって遠のいてしまうと指摘する。

コスパで考えるとはつまり、結婚や子育てを「人生すごろく」の一コマとして捉えていることの証左なのであろう。

結婚や子育てという純粋な歓びを、「機会費用」という名で利得を計算し(専業主婦になるとX億円の損、とか)、結婚や出産を「リスク」とみなすような結婚支援や少子化対策が大手を振ってきたのである。

今日の少子化は、その末路と考えるべきだろう。

また「結婚すればなんとかなる」という考え方は問題の先送りであり、パーソナリティを安定化させ、生活を支えるという機能を有していた家族を失った場合、途端に行き場がなくなってしまう。これも、現代家族が抱える本質的困難の一つである。

それらの難点を承知した上で永田氏は、「結婚する人生も、しない人生も、同じくらい尊い」と述べ、「自分と違う選択をした人々に寄り添いながら、それぞれの人生を尊重する」という思考力を持つことを1人ずつでも増やしていくことが、生涯未婚時代を明るく照らすと結んでいる。