核から経済へシフトか?金正恩体制「若干の変化」が示すもの

米中はどうやらその出方を窺っている
津上 俊哉 プロフィール

金正恩の本音はやはり経済?

北朝鮮は仕上げの実験が難しくなったが、一方で「朝鮮半島の非核化」目標も印字が消えかかっている。9月4日の記事でも触れたが、今後、最も蓋然性の高い成り行きは、北朝鮮と日米韓など関係国が、冷戦当時の米ソ両国のような睨み合い、ないし膠着状態に入ることだと思う。

ただし、ここにも変化の兆しが出てきたという。北朝鮮が今後、政策の優先順位を核ミサイル開発から経済建設へと移す可能性があるというのだ。

これは慶応義塾大学の磯崎敦仁准教授と毎日新聞の澤田克己・前ソウル支局長が11月18日の「wedge infinity」で指摘しているのだが、金正恩委員長が標榜する「並進路線」とは、「国防費を増やさずとも、少ない費用で国の防衛力をさらに強化しながら経済建設と人民生活の向上に大きな力を回せるようにする」ものであり、「核ミサイル開発に資源を集中して先に抑止力を確保する。それによって平和が確保された後は経済建設に集中することを目指している」という。

「経済建設を重視する」というのは、これまで「北朝鮮経済は崩壊寸前だ」と考えてきた者にとって奇異に聞こえる話だが、韓国の中央銀行、韓国銀行は最近、北朝鮮の2016年の実質国内総生産(GDP)が前年比3・9%増加したとの分析を明らかにした。

 

どうやら価格統制を緩めて市場メカニズムを働かせるという初期の経済改革に乗り出したようだ。価格統制を緩めれば、品物は不思議と表に出てくるのが経済の常だ。北朝鮮でも、物資の供給が豊かになる代わり物価が上昇する、プチ金持ちが出現して貧富の格差が拡大するなど、中国でいえば1980年代の「先富論」のはしりのような状況が始まったらしい。

ちなみに、こういう経済改革を進めると、オールドエコノミーに属する軍隊は、物価上昇でますます苦境に陥る。最近、38度線で脱北を図った北朝鮮軍兵士は、栄養失調、寄生虫とひどい栄養状態だったという。さもありなんという話だ。

磯崎准教授らは、「(金正恩が)対米抑止力を確保したという認識に至ったのならば、今後は経済に軸足を移していく」可能性があるとしている。金正恩がそれで国民に統治のレジティマシー(正統性)をアピールしようとしているのなら、けっこうなことだ。金正恩は伊達に海外留学していた訳ではなさそうである。

もしそうなら、膠着状態の打開にも薄日が射す。9月初めの水爆実験の後に強化された国連安保理の制裁がそのままでは、輸入に必要な外貨もエネルギーも確保できずに、経済建設を進めたくとも進めようがないだろうから。

中国主導で対話を開始できるか

中国は11月17日、習近平の外交関係の腹心とされる宋濤共産党対外連絡部長を平壌に派遣した。派遣の目的は「第19回中国共産党大会の結果を説明する」ためという。北朝鮮が大会開催に祝電を送り、中国もこれに答礼したことも紹介されている。

北朝鮮が核ミサイル実験で繰り返し習近平の顔に泥を塗ったことを思えば、中朝関係に転機が訪れた感がある。この中朝接触にはトランプ大統領も注目しており、「大きな動きだ。何が起きるか見守ろう!」とツイートしている。

それだけではない。先週までのアジア歴訪に随行していたホワイトハウス報道官は、北京に向かう機上で「トランプ大統領はアジア歴訪の最後に(北朝鮮を「テロ支援国家」に再指定することを)決断すると話している」と明らかにしたそうだが、けっきょく歴訪が終わっても、再指定の発表はなかった。

きっと北京で習近平から宋濤部長訪朝の予定を聞かされ、「その結果を見るまで、指定は見合わせてほしい」と言われたのだろう。米中両国とも、制裁決議の圧力の下で、北朝鮮が交渉の席に着くことを期待しているのだ。

この接触がきっかけとなって、北朝鮮との交渉が始まることを願うが、その先も楽観はできない。仮に北朝鮮が交渉の席に着いても、現状ではどのようなディールが成り立つのか、見当がつかないからだ。北朝鮮は制裁解除を求める代わりに、何を譲るのか。