中国からの旅行者が急増中のネパール。2013年の12万3000人から約6倍の伸びを見せ、2016年には73万人に達した。
同年の訪日中国人637万人と比べれば、9分の1強ほどの数であるものの、北海道の1.8倍程度の面積の国に、これだけの人が押し寄せているのだから、主だった観光スポットは中国人で満員御礼。ネパール経済の底支えを担ってくれるとして、大いにウエルカムな存在となっている。
ネパールに通い続けて20余年。その間、貧困を原因とする社会問題に取り組んできた筆者としては、ネパール経済が潤うのは喜ばしいかぎりだ。しかしその一方で、近年のネパールと中国の蜜月ぶりに、不穏な空気を感じてならないのである。
仏教の聖地に中国の赤い舌が
両国の関係性に違和感を覚えたきっかけは、ネパールを訪れる中国人観光客が増え始めた6、7年前のことだ。懇意にする現地新聞のビシュヌ記者から、“ルンビニを整備するため、中国のNGOが20億ルピー(約20億円)の支援を決めた”との話を耳にしたことにある。
ネパール南部に位置するルンビニは、ブッダの生誕地とされる仏教の聖地だ。信者はもとより、世界の旅行者が足を運ぶ観光名所としても名高い。そのルンビニをより魅力的な地とするため、大々的に整備するというのである。
他国の観光資源に大金を投じるというだけでもひっかかりを覚えたものだが、なにより腑に落ちなかったのは、それを買って出たのが中国のNGOという点だ。中国のような国に、NGOのような性質の組織が存在するとは思えなかった。
そんな疑問を投げかけてみたところ、おぼろげながら予想していた答えが返ってきた。いわく、NGOというのは表向きの組織であり、実質的には中国政府のプロジェクトだというのだ。
「2008年3月に起きたチベット騒乱の際、中国政府によるチベット自治地区内での弾圧が世界的な非難を浴びました。そのときについた負のイメージを、仏教に心遣いを見せることで、払拭しようと考えたのだと思います。

一見、ネパールのための援助に思えますが、100パーセント、自国の利益のためのプロジェクトということ。そもそも、中国にNGOがあるとは思えません」
今年1月、この言葉を裏付ける動きが中国であった。“外国非政府組織(NGO)国内活動管理法”が施行されたのだ。中国において活動する700~1000の外国NGOに対し、公安当局への事前届出が義務付けられ、一切の政治、宗教、営利活動等への関与が禁止されるというものである。
かりに、中国の安全や利益、民族の団結を損ないかねない活動を行ったと判定された場合は、即座に活動停止を言い渡されることになる。事実、多くの外国NGOが活動縮小もしくは活動停止に追い込まれたのである。
かような、国際支援の意義を根底から否定するような国に、真っ当なNGOが存在するとは思えなかった。
しかし、筆者の違和感をよそに地元の人は大いに沸いた。夜更けにジャッカルの遠吠えが聞こえるような田舎の村だったルンビニが、大々的な整備によって大きく発展するのだから、当然の人情である。