「レイプされて生まれた子を愛せますか」ある母親の深刻な問いかけ

育てられない母親たち【12】
石井 光太 プロフィール

娘は特別な意図もなく訊いただけだったろう。だが、志保理は娘が自分を非難してきたと思い、心の中で「おまえが生まれたからだろ」とつぶやいた。

以降、志保理は娘への憎しみが増して手を出すようになった。病気のことでつらいとか苦しいと言えば「あんたが悪いんでしょ!」と言って頬を叩き、お腹が空いたと言えば「あんたが生活を壊したんでしょ」と蹴りつける。娘の一挙一動が気に入らず、憤懣を爆発させたのだ。

ある日、病院の担当医師が虐待に気がつく。娘の診察をしている最中、志保理を別室に呼び出して言った。

「最近、お子さんに手を出していませんか。この子は普通の子よりもはるかに体が弱い。しつけを厳しくしすぎると命にかかわることもありますよ」

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志保理はそれを聞き、このままでは虐待がエスカレートして娘を殺すことになりかねないと思った。だが、今後彼女を愛せる自信はまったくない。

悩んだ末、志保理は娘を手放すことにした。市役所に電話をして、娘が望まぬ子だったこと、虐待をしていること、将来的に育てられないことを打ち明けたのである。最初、志保理は支援を受けて子育てをすることを勧められたが、「絶対に無理だと思う」と強く拒絶し、施設へ入れてもらうことにした。

「望まぬ子」と虐待の因果関係

志保理の例に限らず、望まない子が生まれる背景には様々な要因がある。

経済的な事情から望まれなかった子、レイプや近親相姦でできた子、不倫によって生まれた子、風俗で働いている女性がお客さんとの間にはらんだ子……。

多くの人は、「望まないなら避妊しろ」とか「なぜ中絶しなかったのか」と言うだろう。真っ当な意見である。だが、現場でそうした親に接している福祉関係者は、また別の意見を持っている。

「すべての女性が最高のタイミングで、最高の相手との間に子供ができるわけではありません。望まない子をお腹に宿してしまうケースはあることなのです。

 

大半の女性は、そういう時に中絶をするか、養子に出すという選択をします。しかし、望まない子を手元に置いて、さらに虐待まではじめてしまう女性は、そもそも精神疾患など様々な事情を抱えているケースが多いのです。また、中絶や養子に出すという選択ができない状況下に置かれているケースもありますね」

これまでに経験したケースであれば、次のような女性がいたという。

この女性は、夫の実家に同居していた。何度かうつ病を発生していて気の弱い女性だった。義父はそんな息子の嫁の性格を見抜いたのだろう、度々性行為を迫って来た。女性は何度か無理やり関係を持たされた末に妊娠。夫が家計を握っていたため、内緒で中絶することができず、出産することになった。子供は無事に生まれたが、これによってさらに精神を病み、子供への虐待をはじめたという。

このように複合的な要因から「望まぬ子」を産み、虐待が起きてしまうのだ。

志保理の場合も、過去の過ちを掘り返された上に、暴力団員の存在をチラつかされて性行為を強要された。そして「妊活」をしていたことから中絶ができずに出産。後に血縁関係が露見して離婚した。こうした経緯を考えれば、彼女のケースも複合的な要因が絡み合っていると言えるだろう。

現在、日本では年間に18万件の中絶手術が行われている。これは6回の妊娠に1回中絶が行われているということだ。逆に言えば、それぞれ形はちがえど、それだけ望まぬ妊娠している女性がいる可能性がある、ということでもある。

これだけの数にのぼれば、当然志保理の娘のように、「望まない子」を産まざるをえなかったケースというのも相当数あるだろう。

女性は子供を産めば、無条件に愛情を注げるわけではない。生まれてしまった「望まない子」の成長をどう支えていくのか。

中絶の問題と同時に考えなければならないことだ。

1980年代にネオンを輝かせていた上野界隈のフィリピンパブ。父親の経営する店の人気者だった姉は、AV女優として成功したけれど…風俗という“闇の世界”に生きて、それでも光を求める女や男たちの物語。