「レイプされて生まれた子を愛せますか」ある母親の深刻な問いかけ

育てられない母親たち【12】
石井 光太 プロフィール

妊娠に気がついたのは、そんな最中のことだった。志保理は夫の勝通ではなく、征一郎の子供である可能性があったことから中絶を考えた。だが、「妊活」のために夫婦で通っていたクリニックで妊娠が発覚したため、事実を打ち明けることができなかった。勝通も自分の子であることを疑わず、「早く生まれればいい」と有頂天になっていた。

志保理は言う。

「あの頃の私はパニックになってました。どっちの子かわからないし、中絶はできないし、本当のことを話すこともできない。なんとか、お腹の子が流産してくれないかと、わざと水風呂に長時間つかったり、筋トレ用のバーベルでお腹を叩いたり、妊娠に悪いって言われている鎮痛剤を大量に飲んだりしていました」

願いもむなしく、志保理は娘を出産する。征一郎の方は、妊娠がわかった途端に逃げるように行方をくらました。

 

娘の血液型が夫と一致しない

志保理は、娘をはじめて見た時、征一郎の子供にちがいないと思った。目や口元を見て勝通より征一郎に似ていると感じたのである。だが、あえて調べることはせず、勝通の子供として育てることを決心した。

少しして、思いもよらない事が起こる。娘が心臓に問題を抱えていることが発覚したのだ。そのため、検査入院をしたり、医師から治療の説明を受けたりしている最中に、娘の血液型が勝通と一致しないことが発覚した。

ある日、病院から帰ってきた勝通は言った。

「あの子、俺の子じゃないだろ。どういうことだ」

志保理は隠しきれないと思い、泣きながら事情を打ち明けた。勝通は愕然とした表情で何も言わなかった。

結婚生活はその後もつづいたが、勝通はほとんど志保理と言葉を交わさなかった。眼も合わそうとしない。娘が原因なのは明らかだったが、志保理は自分が悪いとわかっていたので何も言えなかった。

半年後、2人の関係は幕を閉じる。勝通は「血のつながっていない子供と自分を裏切った嫁とは暮らせない」と言って家を出ていったのである。志保理は引き留めることも、養育費を求めることもできなかった。

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離婚後、志保理は病弱の娘を1人で育てることになった。自分の責任なんだから、なんとかしなければという思いがあった。だが、娘は成長するにつれ、どんどん征一郎に似てきた。元彼氏とはいえ、自分をレイプした相手にそっくりとなれば、心から愛情を注ぐことは困難だ。

彼女の言葉である。

「娘には産む前からまったく愛情を持てませんでした。あの子が生まれたせいで、私は勝通との結婚生活を壊された。しかも頻繁に体調を壊して私にプライベートの時間を一切持たせてくれない。私が悪い部分もわかっていたから世話をしていましたが、心の底では憎しみだけがつみ重なっていったんです」

こうした感情が志保理を虐待へと走らせた。きっかけはだいぶしゃべれるようになった時、娘がこう言ったのだ。

「なんで、うちはパパがいないの?」