それは本当に「虐待」ですか?二児の母が突然逮捕・起訴されるまで

「揺さぶられっこ症候群」を問う②
柳原 三佳 プロフィール

「殺意」

しかし、京子さんは耐え抜いた。『被疑者ノート』には、夫に向けたこんなメッセージも綴られていた。

『●●くん(夫の名)、伝言ありがとう。国家権力を行使して、自由を奪った人間相手に、あいつ(取調官)は(私から)一言すら取れていません。弁護士の先生が毎日来てくださるおかげで何とか持ちこたえています。そろそろくじけそうになりますが、残り9日、頑張ります(括弧内は筆者)』

留置場の中で黙秘を貫く京子さんに対しての、連日にわたる理不尽な取り調べの内容に強い憤りを感じた秋田弁護士は、「大阪府警による取り調べは、黙秘権の侵害に該当し、かつ自白強要とも取れる」とし、すぐさま大阪府警本部長に抗議書を送りつけた。

秋田弁護士は語る。

「本件の留置場での取り調べは、録画、録音されていました。その内容を精査すれば、担当刑事による侮辱的、かつ威圧的な取り調べの内容が全て明らかになり、被疑者の訴えが裏付けられるはずです。それがわかっていながら、取り調べにおいてこうした言葉を平気で発していることが、にわかに信じられませんでした」

2015年10月7日、結果的に京子さんは起訴された。罪名は「殺人未遂」から「傷害」に切り替えられていた。勾留請求時の段階で検察が記した『被疑事実の要旨』には、次のように記されていた。

<被疑者は平成26年11月10日から同年12月18日午後6時頃までの間、大阪市*******の被疑者方において、長女(平成26年11月5日生)に対し、殺意をもって、何らかの手段方法により暴行を加えたが、同時に外傷後てんかん等の完治不能の後遺症を伴う硬膜下血腫、頭蓋骨骨折等の障害を負わせるにとどまり、殺害の目的を遂げなかったものである。

「殺意」という言葉は、井川さん夫妻にとって、耐えがたい屈辱だった。

 

起訴から6日後の10月13日、保釈金300万円で保釈が認められた。2017年11月現在も、大阪地裁において刑事裁判が継続中だ。

この裁判は今、Bちゃんの脳に起こった硬膜下血腫が「暴力的なゆさぶり」、つまり揺さぶられっこ症候群によるものか否かが争点のひとつとなっている。検察側はBちゃんが脳に負った障害は「強い揺さぶり」による虐待の証拠で、2歳半の兄によって引き起こされるはずがないものだと主張しているのだ。