ただし、オランダは憲法で教育の自由を保障されているため、国で決めた性教育のカリキュラムや教科書といった類のものがない。初等教育でセクシャリティおよび性的多様性を学ぶ義務はあるが、性教育の開始学年、内容は学校単位で変わるというのも特徴だ。

先ほどの動画のように4歳から「愛情」や「人権」などの基礎から学ばせる学校もある一方、10歳ごろに生殖や妊娠出産の仕組み、要はセックスの仕組みという具体的な内容から始める学校もある。そして中等教育に入学後の12歳から14歳ころまでには、避妊に関してや性感染症のリスクといったような多岐にわたる内容を学ぶことが多いようだ。

毎年3月の春分頃には、性教育ウィーク「レンテクリーベルス」(Lentekriebels)が実施される。性教育研究や性的マイノリティの権利擁護を専門とする団体「Rutgers」の提唱で実施される啓蒙キャンペーンで、オランダ各地の小学校が参加している。

この「Rutgers」は、ちょうど2017年11月に設立50周年を迎えたばかり。50周年の記念イベントには現オランダ国王ウィレム・アレクサンダーも出席したと、オランダのメディアが報じた。つまりは国王自らが「オランダは性教育を大切にしている」と明らかにしているのである。

オランダの小学校にて。性教育に限らず、伸び伸びと自分で考えさせる教育が基本だ。

筆者が冒頭で紹介した、「小学生たちがコンドームをつける実習をしている動画」も、実はこの啓蒙キャンペーン「レンテクリーベルス」に参加した小学校の様子だ。
ちなみに「レンテクリーベルス」とはオランダ語で「春のくすぐったさ」を指し、恋に落ちそわそわするような気分を意味する。性行為というものが「感情」とつながっているということをアピールしている。

この動画の中で、8年生(初等教育最高学年、日本の小学6年生にあたる)のStijnという男子は「(性教育は)最初は恥ずかしくて笑っちゃったりしたけど、今では真面目にやってるよ」と自分たちの取り組みを堂々と語っていた。

コンドーム実習にかかんに挑んでいた、同じく8年生のIsaという女子は「こういった練習をしないと、いきなりそういう場面がきたら何も分からなくて困るでしょ?」と実に合理的な結論を述べていた。オランダの小学生は、なんともたくましい。

では、こういった性教育をうけた子供たちは、性の目覚めが早いのだろうか。奔放な性生活を送っているのだろうか?

初体験が遅く、望まない妊娠も少ない

大胆な性教育を実施するからといって、子供たちは早熟になるわけではない。意外かもしれないが、オランダの少年少女の初体験はむしろ遅い。WHO(世界保健機構)が2016年に発表した、欧州および北米の40地域の15歳を対象とした調査によると、全体平均で女子17%、男子24%が(15歳の時点で)性交渉を済ませている。その一方、オランダは女子16%、男子15%といずれも平均を下回っているのだ。

前述の性教育シンクタンク「Rutgers」と「SOAAIDS」(エイズ予防と性的健康の専門家団体)が2017年に発表した「25歳以下のセックス」(Seks onder je 25e)という12歳から25歳が対象の調査研究では、オランダの子供の初体験年齢の平均は18.6歳。2012年の同調査では17.1歳だったので、より不本意な性行為を避けることができるようになってきていると専門家は分析している。

オランダのカップルは避妊もしっかりするので、10代の望まない妊娠も少ない。オランダ政府の統計機関「CBS」によると、中絶率は10代全体の0.7%。イギリスやエストニアなどは2%を超えているので、他のEU諸国と比べても低い。北欧の国の中には、スウェーデンのように10代女子の出産率は低くても、中絶率は高いという国もある。そうみると、オランダの性教育は成功していると言えるのではないだろうか。

前述のように、オランダは学校ごとに「教育の自由」が認められているので、全ての小学校がここまで性教育に熱心だとは言い切れない。

オランダのティーンの低妊娠率・低中絶率がなしとげられている理由のもうひとつは、学校以外にも子供の性教育の礎となる場所があるからだ。そう、それは各家庭に他ならない。