乳児虐待の疑いで逮捕された母の、悲痛な叫び

「揺さぶられっこ症候群」を問う➀
柳原 三佳 プロフィール

児童相談所に引き裂かれた親子

まずは、この事件の経緯を時系列の図で振り返ってみたい。ただし、これはあくまでも、京子さん本人の記憶に基づく陳述書や、弁護人の作成した書面をもとにまとめたものであることをあらかじめ断っておく。

井川さん夫妻にとって待望の女の子、Bちゃんが生まれたのは、2014年11月5日のことだった。

そのBちゃんが、当時2歳半だった兄のAくんによる1度目の落下事故に遭ったのは、生後2週間後、11月27日のことだった。図にもある通り、Aくんは高さ80センチのベビーサークルの柵を乗り越えて中に入り、Bちゃんを持ち上げて外に落としたというのだ。

(*「2歳半のAくんに、妹のBちゃんを持ち上げることができるのかどうか?』については、児童相談所に保護された後、Bちゃんと同じ重さの人形を使って検証された。Aくんが5キロの人形を軽々と持ち上げ、それを落とす様子を撮影した動画は刑事裁判にも提出されており、京子さんが供述した「Aくんの行為」が不可能ではないことは裏付けられている)

このとき、Bちゃんは額に切り傷を負い、側頭部にブヨブヨした感触があったため、京子さんは救急医療センターに連絡を入れるも、特に症状がなかったため、しばらく様子を見ることになった。

そして、生後6週間目に入った12月18日、今度は2度目の落下事故が起きてしまう。

詳細は図に記したとおりだ。このときは、おもちゃを片づけるため少し目を離したすきに、AくんがまたBちゃんを落下させたようだった。 その日のことを、京子さんは自身の陳述書にこう記している。

<2014年12月18日、生後1か月半の長女の顔色がみるみる変わっていったとき、私はとっさに『子育て便利帳』を手に取っていました。でも、次の瞬間、『これじゃない。119番だ!』と我に返り、慌てて救急にダイヤルしました。その後は、パニックでした。長女を一刻も早く病院に……と、気持ちばかりが焦っていました>

京子さんは119番通報するため、動転したままBちゃんを抱き上げ、一瞬テーブルの上に寝かせたのだが、そのわずかな間に、AくんはBちゃんの足を引っ張り、今度はテーブルの上から転落させてしまったのだ。

 

救急車で病院へ運ばれたBちゃんの症状は深刻だった。急性硬膜下血腫のほか、吐乳と誤嚥、心肺停止に。その結果、低酸素脳症に陥っていた。

「救急の医師からは、『家の中で心肺停止になったということなので、病院から警察と児童相談所に通知します』と告げられました。病院からの通報を受けた警察は、病院で簡単な調書を作成し、翌日の午前2時~4時にかけて自宅での現場検証をおこなったのです」(京子さん)

Bちゃんは、児童相談所の保護下のもとでそのまま入院することとなった。そして前述のとおり、この日、長男のAくん(2歳半)も、児童相談所による一時保護というかたちで、突然、両親から引き離された。

「全く予想していなかったことで、ただただ驚きました。私は泣きながら、児童相談所の担当者に『息子のことをよろしくお願いします……』そう言ったことを覚えています」

結婚4年目、大企業に勤める穏やかで優しい夫との経済的にも安定した暮らしの中で、2人目の子供を授かり、専業主婦を続けながら幼い二人の子育てに励もうと思っていた矢先、家族4人の生活は、一瞬にして崩れてしまったのだ。

(後編に続く →http://gendai.ismedia.jp/articles/-/53528