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残酷な「遺伝の真実」あなたの努力はなぜ報われないのか

知ると後悔するかもしれない…
安藤 寿康 プロフィール

「遺伝の影響が60%」の意味

ここで、そもそもなぜ学力の遺伝の影響が60%と計算できるのか、その数値にどんな意味があるのか説明しておこう。

遺伝の影響が60%とは、テスト得点が80点だったとき、その60%にあたる48点までは遺伝で取れ、残り40%ぶんの12点を環境が補ったというような意味では全くない。それはある集団の成員の「ばらつき」を説明する割合である。

「ばらつき」というのはややなじみのない概念だと思うので、「2階建ての建物の高さ」の比喩で考えてみよう。

この建物の高さを決めているのは1階だろうか、それとも2階の高さだろうか。この問いがナンセンスであることはすぐにお分かりいただけるだろう。

「2階建ての建物の高さ」は「1階の高さ+2階の高さ」なのであって、その両方がそろって初めて全体の高さが定まる。

しかしここに5軒の2階家があり、1階の高さは3mで一定、2階の高さだけが2mから4mのあいだでばらついていたとしたとき、この5軒の高さの「ばらつき」を決めているのは1階だろうか2階だろうか、という問いであれば意味がある。

これは100%、2階の高さで決まっている。つまり2階率100%だ。今度は逆に2階の高さが3mで一定、1階の高さだけが2mから4mのあいだで散らばっていたとしたら、これら2階家の高さの「ばらつき」における「1階率」は100%、「2階率」は0%ということになる。

ここで1階も2階も、同じように2mから4mのあいだでランダムにばらついた組み合わせからなる5軒の2階家の高さについて考え見ると、1階も2階も同じ程度に散らばっているので、だいたい1階率も2階率も50%ずつくらいとなる。

また1階のばらつきは2mから4mと2mの幅だが、2階のばらつきはその半分で2.5mから3.5mと1mの間しかないとしたら、1階対2階の比が2:1となり、1階率がおよそ67%、2階率がおよそ33%となる。

遺伝と環境の割合も、おおむねこうした関係をイメージしてもらえばよい。

 

この世に生きる人たちは遺伝要因でも環境要因でもばらついていて、その特定の組み合わせがその人を作っている。

その出来上がったもののばらつきの中で、遺伝要因によるばらつきと環境要因によるばらつきが、それぞれ何%ずつかを問題にしているのである。

たとえば学業成績の偏差値が同じ50の人でも、ある人は遺伝的にはふつう(「ふつう」とは「ふつうの平均的な環境に育てば」の意味である)60取れるのに、環境が劣悪でふつうの力が発揮できず-10だったために50という人もいれば、ふつう遺伝的には40の人が、特に恵まれた+10の環境で学習したから50になったという人もいるというモデルを考えている。

しかしそれをひとりひとり知ることはできないし、これだと個人単位でパーセント表示できないので、「ばらつき」という形で見るのが双生児法である。

双生児法では、きょうだいの類似性を示す相関係数という数字を使う。完全に類似していればその値は1、全く似ていなければ0、学業成績だとたとえば一卵性では0.75、二卵性だと0.45くらいである。

これは遺伝要因(x)も家族が共有する環境要因(y)も同じ値で散らばった人たちの類似性が0.75(x+y=0.75)、遺伝要因では半分しか類似していない(0.5x)が、家族の共有環境要因では同じ値(y)で散らばった人たちの類似性が0.45(0.5x+y=0.45)ということなので、(カッコの中に書いたxとyの二つの式からなる連立方程式を解くと)遺伝率(x)が60%(0.60)となる。

残り40%(0.40)が遺伝によらない環境の影響である。そしてその環境の中でも、家族で類似する共有環境の割合(y)が15%、それでも説明されない家族で共有されない一人ひとりに固有な環境の影響が残る25%(ちょうど一卵性が類似して「いない」程度、つまり完全な一致を示す1から一卵性の類似性0.75を引いた値に等しい)ということになる。