世界遺産に登録された軍艦島〔PHOTO〕gettyimages
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外国人にも人気の「廃墟」は産業遺産か、心霊スポットか…

その「価値」を分けるもの

注目の「廃墟ツーリズム」

渋谷のスクランブル交差点、空を走る無数の電線、パチンコ屋、カプセルホテル……。

いずれも外国人旅行者に人気の高い観光スポットだ。日本で暮らす人にとっては、どれも日常的なものだが、異文化として日本に接する旅行者には新鮮に映るようだ。

その地域に長年暮らす人が気づかなかったものが、外からきた人々に発見される。観光が世界規模で活性化し、観光のまなざしがあらゆる場所に注がれるようになる中で、意外な観光地が次々と発見されている。

こうした形で人気を高めているものの一つが「廃墟」である。廃墟の写真集やガイドブックが出版され、廃墟情報をまとめたウェブサイトも無数にある。「工場萌え」などと同じく、それまで見過ごされてきた物が、あらためて見るに値する物として再評価されているのだ。

「マヤ遺跡」をご存じだろうか。

といっても、かつてメソアメリカで繁栄したマヤ文明の遺跡のことではない。神戸市灘区にあるマヤ遺跡だ。廃墟好きの方であれば、名前を聞いたことがあるのではないだろうか。

昭和初期、摩耶山の中腹に摩耶観光ホテルが建設された。今北乙吉が設計を手がけた鉄筋4階建のアールデコ風洋館で、その形から「山の軍艦ホテル」とも呼ばれた。戦争中の休業を挟んで戦後も営業を続けたが、1993年に経営難で惜しくも廃館となった。

その後、阪神淡路大震災もあり、建物は朽ちてゆくが、それによって逆に注目されるようになる。美しい廃墟として、国外からもマニアが訪れる場所になったのである。

近年、廃墟ツーリズムの裾野はさらに広がりつつある。これまで見過ごされてきた物が、あらためて見るに値する物としてとらえ直されつつあるといえる。

 

「廃墟の廃墟化」が止まらない

一方で、廃墟ツーリズムにはさまざまな問題がある。訪問者の安全性や不法侵入などはもちろん、中でも深刻なのが、「廃墟の廃墟化」が止まらないことだ。

管理者や所有者が不明なこともあるし、仮に管理者や所有者がいても、廃墟がメンテナンスされることはほとんどない。そのため、時と共に荒廃は酷くなり、撤去されたり倒壊したりしてしまうのである。

観光の対象としての廃墟は難しい位置にある。あたり前だが、廃墟をきれいに整備補修することはできない。訪問者にとっては、手つかずの荒廃こそが廃墟の魅力である。

その意味で、観光対象としての廃墟は広島の原爆ドームと似ている。原爆ドームは、核兵器の恐怖を伝えるために、あえて半壊状態に保たれている。こうした状態は、雨水の侵入を許すなど色々な問題があるが、補修してしまっては意味がなくなるのだ。

また、インドのブッダガヤも元々は廃墟であった。ブッダガヤは釈迦が悟りを開いた場所とされ、仏教の最高聖地と言われる。しかし、13世紀頃にインドで仏教が衰退しきった後、数百年にわたってブッダガヤは忘れ去られた場所であった。

同地が再発見されたのは19世紀、インドを植民地化したイギリス人考古学者、アレキサンダー・カニンガムによってであった。それまでは建物も朽ちる一方であったが、カニンガムの再発見以降、ブッダガヤは整備され、廃墟から世界的な聖地へと変容したのである。

このように、廃墟を整備してしまえば、魅力がなくなったり、別の場所へと変わったりしてしまう。だが、廃墟を廃墟のまま維持するには莫大なコストがかかる。

原爆ドームの場合、1966年以来、4回の大規模な保存工事が行われているが、毎回、数千万円の経費がかかっている。特に1989年の第2回保存工事には2億円以上が費やされた。それ以外にも、3年ごとに検査が行われ、その結果に基づいて補修工事が施されている。

しかし、ごく一部の場所をのぞけば、メンテナンスはコスト的に難しく、廃墟の廃墟化は進んでゆく。本当に廃墟である廃墟は崩壊の一途にあり、「時限観光地」なのである。