核実験を繰りかえすあの国に、Kちゃんは住んでいる。

最相葉月が描く北朝鮮の友、中国朝鮮族の友
最相 葉月 プロフィール

人体実験の731部隊施設へ

私はこのハルビンへの旅で行ってみたいところがありました。大日本帝国陸軍731部隊が生物兵器の開発のために多くの人体実験を行った施設の跡地を利用した記念館、侵華日軍第731部隊罪証陳列館と、ハルビン駅舎に完成したばかりの安重根義士紀念館です。

恩恵らに促されたわけではありません。中韓が共闘して日本に圧力をかけることが目的でつくられたと日本で盛んに報じられ、菅義偉官房長官が安重根はテロリストだと発言したのを受けて韓国政府が反論するなど、双方の主張の対立が顕わになっていた時でした。実際どんなものなのか、自分の目で確かめたいと思ったのです。

自分の国が犯した罪を突きつけられるのは気が重いものです。しかもそばには恩恵とその家族がいます。陸軍が逃げるときに地中深く埋めた実験器具や、生きたまま実験台にされて悶え苦しむ姿をした人形からは目を背けたくなりました。デフォルメされた映像や誤った写真には疑問は持ちましたが、だからといって実験が行われた事実は否定できません。

人数には諸説ありますが、約1000人から3000人の「マルタ」と呼ばれる中国人や朝鮮人、ロシア人捕虜らがここで犠牲になったのです。

731部隊罪証陳列館 Photo by Gettyimage
731部隊人体実験の展示が Photo by Gettyimage
 

安重根義士紀年館では、抗日運動を戦った安重根の功績を称える展示物を見ました。日本の報道から想像していたものとはずいぶん違い、小さく目立たない施設でした。ここにも多少の誤りは見受けられましたが、安重根が唱える東洋平和論、すなわち日中韓が協力して西欧勢力を排除し、東洋の平和を実現しようという考え方には見るべきものがあると感じました。

伊藤が枢密院議長としてロシアと協議することを予定していたのは、対中国を軸とする東洋平和です。同じ「平和」でも、こちらは日本が西欧から学んだ帝国主義的平和でした。

 

安重根は日本から見ればテロリストですが、伊藤もまた、維新の革命家として活動し、国学者塙次郎を襲い、英国大使館の焼き討ちにも加わった、時代と立場が違えばテロリストと呼ばれてもおかしくはない人物です。互いの主張は大きく異なりますが、テロリストと呼ぶなら、呼ばれた側の背景を知る必要があると痛感しました。

恩恵やその家族にはどちらも身近な施設で、とくに安重根は朝鮮民族の英雄です。しかし、恩恵の家族が日本を批判するわけではありません。双方にはそんな悲しい歴史があったと受け止めるだけです。彼らは、反日教育が始まる前、日本人すべてが悪いのではなく、責任は一部の指導者にあると学んだ世代です。彼らの歴史認識に甘えた結果、加害の歴史を深く知ろうとしなかった自分を恥じました。

この旅では、恩恵の家族が親しくする漢族の医師に会ったのですが、彼の口からは強烈な日本批判が飛び出し、閉口しました。民主党政権による尖閣諸島の国有化や安倍首相の靖国参拝が、どれだけ中国人の神経を逆撫でしたかと責められました。日本人はみな安倍首相と同じ考えを持ってるのだろうとも問い詰められました。