犯罪心理学者が読み解く、座間9遺体遺棄事件「最大のナゾ」

「黒い衝動」と「冷たい脳」について
原田 隆之 プロフィール

ただ、サイコパスについて、いたずらに恐怖心を募らせる必要はない。

なぜなら、サイコパスのなかでも、このような凶悪犯罪に至るのは、例外的と言っていいほどごく少数であり、犯罪に至らず社会にある程度適応して生活しているサイコパスのほうが多い。

また、かつては「治療不可能」と言われていたサイコパスへの治療も、少しずつではあるが進歩が見られつつある。

われわれ社会として今できることは、冷静にこの事件を分析し、そこから学び得たことを今後の犯罪予防にどう生かしていくかを考えることであろう。

彼は「きっかけ」を語るのか

このように、サイコパスの脳と心理から、この事件を読み解くと、容疑者の行動に対して少しは理解が進んだように思われる。

しかし、その一方で、最初に呈示した「最大の謎」はまだわからないままである。彼がサイコパスだったとして、この事件へと向かわせた契機となったものは、一体何だったのかという謎である。

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人は、ある日突然サイコパスになるのではない。それは、生まれ持った傾向と環境の掛け算として、発達の早期から準備される。ただし、犯罪神経学者のエイドリアン・レインは、前者の影響が80%を超えると述べている。

また、扁桃体に由来する、あたかも殺人を愉しむかのようなサディスティックな衝動や「首吊り」に対する異様なまでの執着も、ある日突然生まれてくるわけではない。それは、おそらくは性的欲求が芽生え始める思春期ころにその萌芽を辿ることができるだろう。

彼は、自分のなかにある黒い衝動に気づきながらも、これまでどうにかして「冷たい脳」で、それを抑えようとしてきたのではないだろうか。高校卒業後、就職をしたあたりまでは、普通の社会生活を送っていたのだとすれば、それは彼なりの努力の現れであろう。

 

しかし、その後仕事を転々とし、繁華街で風俗スカウトの仕事をし始めたあたりから、生活が乱れ始めている。そして、それに呼応するように、彼は「首吊り士」となっていく。

これは想像でしかないが、「何かのきっかけ」で最初の殺人を犯してしまった後、強烈な快感を得て、それまで辛うじて蓋をしていた欲動が暴発し、もはやとめどなく溢れるに至ったように思える。

しかし、その「何かのきっかけ」は、今のところわからない。

彼はそれを語るだろうか。