犯罪心理学者が読み解く、座間9遺体遺棄事件「最大のナゾ」

「黒い衝動」と「冷たい脳」について
原田 隆之 プロフィール

サイコパスの4つの特徴

犯罪学者、ロバート・ヘアは、サイコパスを定義づける特徴として、4つの特徴を挙げている。それを簡単にまとめると、以下のようになる。

1)対人面-浅薄な魅力、操作性、病的な虚言、無責任、性的放縦、短い婚姻関係
2)情緒面-残虐性、冷酷性、感情の浅薄さ、共感性欠如、罪悪感欠如
3)ライフスタイル-現実的・長期的目標の欠如、衝動性、刺激希求性
4)反社会性-攻撃性、規範の無視、少年期の非行、多様な反社会的行動

これを見ると、白石容疑者は、これらほとんどに合致している。

もちろん、正確な診断を下す際には、訓練を受けた専門家が本人と面接をし、正式なツールを用いて、定義された特徴との適合度を厳密にチェックしなければならない。

私自身、このようなサイコパス診断のための正式な訓練を受けているが、本人との面接ができなくても、犯行や周囲の者の証言などをもとにして、ある程度の判断をすることは可能である。

容疑者において、特に顕著なのは、卓抜したコミュニケーション能力(浅薄な魅力、操作性)と、事件に見られる残虐性、冷酷性、共感性欠如という二面性であることは、先述のとおりである。

また、事件前には短い間に職業を転々とし、その場しのぎの借金を重ねていたりするなど、浮草的なライフスタイルも目立っていた。

加えて、取り調べでは意外なほどペラペラと供述したかと思うと、「嘘でした」とあっけなく前言を翻すなど、呆れるほどの虚言性も見られている。

 

サイコパスはこう意思決定する

サイコパスは、脳の機能障害という説が有力になりつつある。

サイコパスの脳は、前述のとおり「冷たい脳」が優勢で、冷静な判断や計画的な行動に長けている。

したがって、周到な計画を立てて、被害者を物色したり、誘い出したりすることが得意である。相手の弱みを察知し、それにつけ込んだり、相手に取り入るための嘘をついたりすることも朝飯前である。

今回の事件では、自殺志願者が被害者の多くを占めていると報道されているが、もしそれが本当だとすると、心理的に弱っていた被害者の心のなかに、一見優しく思いやりあふれる言動で、巧みに入り込んでいったのであろう。

また、相手が自殺志願者でなくても、誰しも1つや2つは心に弱い部分がある。サイコパスにとって、それを見抜いて相手の懐に入っていくことは、難しいことではない。

しかし、それは「冷たい脳」の計算づくによる言動であり、そこに感情はない。相手に共感して、救いの手を差し伸べているのではない。

共感しているように見えても、それは演技をして、嘘を並べて相手の心を操作しているだけである。サイコパスには、「温かい脳」が働いていないからだ。

彼にとっては、一種のゲームのような感覚であり、相手の人格には関心がない。だから、事件後になって「被害者のことはよく覚えていない」などと平気で言えるのである。

そして、一旦被害者がその手中に落ちると、そこにためらいは見られない。知り合ってすぐに殺したと証言しているように、扁桃体に由来する欲動の赴くままに、残虐の限りを尽くす。

正常な人間であれば、暴力を振るったり、相手を傷付けたりするときに、不安や恐怖を感じて心臓の鼓動が激しくなって、手が震えたり、足がすくんだりする。これは、「温かい脳」と結びついた交感神経が興奮するためである。

しかし、サイコパスは交感神経の働きも鈍く、胸がドキドキしたり、不安や恐怖を感じたりすることがない。

このような生理的反応は、共感性とともに、犯罪行動のブレーキとなるものであるが、彼らには扁桃体由来のアクセルがあるのみで、生理学的なブレーキを欠いている。

さらに、ファロンによれば、サイコパスに関連して、脳にはもう1つの重要な回路がある。それは、自分の外界に注意を払う部位(外側新皮質)と、自分の内的世界に注意を払う部位(大脳半球間の内側中央皮質)から成り立つ回路である。

ファロンは、これら対立する部位に由来するのが、われわれの有する世界に対する二元論的な見方であると述べる。つまりわれわれが、世の中には物的世界と心的世界があるという見方をするのは、この回路が正常に働いているからである。

例えば、生物としての人は死んでも、「たましい」はどこかに生きていると感じたり、遺体には生きている人以上の敬意を持って接したりする。

しかし、サイコパスはこの回路が壊れており、自分以外の外の世界に「こころ」や「たましい」などの心的世界を感じることができない。

他者の生命を機械的に抹殺したり、遺体を平気で物のように扱ったり、遺体に囲まれた部屋で平然と寝起きできたりするのも、そのためである。

われわれは、今回の事件を見て、容疑者のことを理解できないと感じる。

それと同様に、容疑者のほうも、われわれが被害者を思って涙したり、遺体をバラバラにしたことに激しい怒りを示すしたりすることが理解できない。

「首吊り士」などというハンドルネームには、嫌悪感しか感じられないが、彼にはそんなことはわからない。

われわれの断罪の言葉は、彼には、あたかも初めて聞く外国語のようにしか響かない。