犯罪心理学者が読み解く、座間9遺体遺棄事件「最大のナゾ」

「黒い衝動」と「冷たい脳」について
原田 隆之 プロフィール

「冷たい脳」と「温かい脳」

殺人者の脳には特徴的なパターンがあることが、最近の研究で次々と明らかになりつつある。

われわれの脳の一番前に位置する部位を前頭前皮質と呼ぶが、それを上部(背側部)と下部(腹側部または眼窩部)に分けると、上部は冷静な思考や判断などを司る「冷たい脳」であるのに対し、下部は感情、倫理などに関連する「温かい脳」であると考えられている。

これらがバランスを保っていればよいが、ひとたびバランスを欠くと、社会生活や対人関係でいろいろな問題が生じてくる。

たとえば、「冷たい脳」の働きのみが活発な場合には、冷静で実行力には秀でているが、感情のない冷たい人間と評されるかもしれない。

逆に「温かい脳」の働きのみが目立つ場合には、情緒的で共感性には優れているが、テキパキと仕事や物事をこなすことが苦手な人物となる。

また、大脳辺縁系と呼ばれる脳のもっと奥の部分に、扁桃体と呼ばれる小さな部位がある。

扁桃体は、われわれの欲求や感情の調節に関係する部位で、ここに機能の異常があると、欲求のコントロールができず、衝動的で爆発的な行動パターンが出現しやすくなる。

複雑な脳の機能をあまり単純化することは慎むべきではあるが、犯罪者の脳と行動の関係を見るとき、よく指摘されるのがこれらの部位の関連である。

神経科学者ジェームズ・ファロンは、さまざまな暴力的殺人者の脳画像を分析し、衝動的な殺人者は、扁桃体の機能の亢進や「冷たい脳」の機能低下が見られることが多いと述べている。これは、喧嘩で激高して、後先を考えず、相手を殺すような殺人者である。

一方、冷静で計画的な殺人者には、扁桃体の機能亢進が見られるのは同じであるが、「冷たい脳」は比較的正常に動いており、「温かい脳」のほうに機能低下が見られるという。このパターンを持つ殺人者は、「サイコパス」と呼ばれる者である。

 

容疑者の二面性

さて、座間事件の容疑者に関して、その犯行時や日常の行動が、徐々に明らかになってきている。犯行場面では、SNSなどを通して知り合った被害者を、言葉巧みに「首吊り自殺」へと誘い、自宅に連れ込んだ直後に殺害したということである。

さらに、その遺体をまるで物でも扱うように切り刻んだ挙句、ゴミとして捨て、頭部などの一部は自宅に「保管」していた。そこには、身の毛もよだつような残虐性、冷酷性が顕著である。

また、途中からは殺害にも慣れて、「被害者のことをよく覚えていない」などとも供述しているように、人間らしい共感性の欠片もない。

一方、過去の交際相手の証言などから、普段は優しく、気遣いのできる人物だったという一面も明らかになっている。また、SNSで知り合った女性にも、優しい言葉をかけたり、親身に悩み相談に乗ったりもしていたという。

このような容疑者の「二面性」について、メディアでは不可解だという論調がよく見られたし、それを不思議に思われている方も多いだろう。

しかし私は、その二面性についての報道を聞いたとき、この犯人像について徐々に焦点が絞られてくるのを感じた。

つまり、この二面性こそが、容疑者を特徴づける重要なポイントであり、それは「サイコパス」の重要な特徴と一致する。