ドラフト1位の元投手が、今だから語る「ドライチ裏工作」秘史

留学、ケガ、進学希望…隠れ蓑は様々!
田崎 健太 プロフィール

取材にも「気持ちは変わらない」と…

大学進学という体裁を取り繕うため、前田は関西の私立大学のセレクションを受けている。

しかし――。

「ぼくは練習を見るだけのつもりだったんです。行く気はさらさらないですから。カモフラージュです。そうしたら何か知らないんですけれど、ペーパーテストが始まったんです。全く聞いていなかった。1時間目は英語です。いちおう名前は書きました。やろうという気がなかったわけではないんですが、全く理解できない」

前田はわざとむっとした表情を作って試験時間中、腕組みをしたまま坐っていたという。そして1時間目が終わると、前田は教室を出て、駅に向かった。

「落ちたと思うじゃないですか? そうしたら、もう一回来いという連絡が入ったんです。俺はもういい、行かないと返事しました」

そして、前田はドラフトの日を迎えた。

この88年のドラフト会議で複数球団の指名が予想されていたのは、津久見高校の川崎憲次郎だった。その他、大阪桐蔭の今中慎二、社会人ではNTT四国の渡辺智男、プリンスホテルの石井丈裕が上位指名確実と見られていた。その中には、前田幸長の名前も入っていた。

あるスポーツ番組に出演した報知新聞の記者、中島伯男は、先発陣の左腕が工藤公康のみと手薄な西武が前田を1位指名すると予想している。

 

また、ドラフト前日、地元、西日本スポーツはこう書いている。

〈「全12球団のスカウトから〝高い評価はしている〟と言われたけど、ついに1位指名するとは約束してくれなかった。つまりぼくは1位指名の人よりも力不足と判断されたわけで、それならば大学に進学した方がいいと考えた」

前田がこの結論を出したのは前日の22日深夜。父親の助司さん(50)との親子会議で決心したという。(中略)

「もし明日どこかの球団が1位指名しても、もう進学を決めた気持ちは変わらない」とも言った。

大学からは、一度セレクション試験をボイコットした同志社から再度の入学勧誘があったほか、法政、明治、中央、東海大など12球団から誘われているという。進学先は「これから決める」が、「東京六大学は連投させられて故障してしまう可能性が高いので、東都か関西で…」と前田 〉

どうしてロッテなんだ!?

ドラフト会議は11月24日、東京の九段にあるホテルグランドパレスで行われた。この日、前田はいつものように学校に行き、授業を受けていた。

「教頭先生がぼくのことを呼びに来たんです。当時、ドラフト1位は午前中に決まりました。呼びに来た段階で、1位で指名されたんだなと分かりました」

前田が教頭の後に続いて、階段を下りているとき、新聞記者が耳元で囁いた。

「前田君、ロッテのドラフト1位みたいだけれど」

それを聞いた瞬間、何かの間違いだと思ったという。

「ぼくの教室は4階で、記者会見場は1階だったんです。階段を下りながらずっと、おかしい、なんでロッテなんだ、西武は何をやっているんだと考えてました。記者会見場に坐って、質問を受けたのですが、何を喋ったのかも覚えていない。笑顔の一つもなかった。記者からの質問は、まったく頭に入らず、ずっと西武は何をやっていたんだ、と心の中でつぶやいていましたね」