神戸製鋼所を改ざんの巣窟にした「純日本型」不正のメカニズム

人間も企業も関係が過密だからこうなる
菊澤 研宗 プロフィール

不条理な不正を防止するためのマネジメント

このような不条理を解決するためには、まず不正発生の原因の一つが取引コストにあるので、この取引コストを減らす努力が必要だろう。たとえば、上下階層関係や部門間で自由な意見交換ができる、風通しのいい組織にしておく必要がある。そうすれば、さまざまな問題は不条理を回避するような方向で解決される可能性がある。

また、大きな変革が必要な場合、内部昇進の経営者だけでは、多くの利害関係者がいて取引コストが大きいため、変化しない方が合理的と判断される可能性が高い。このような場合、日産自動車を再生したカルロス・ゴーン氏のように、経営者を外部から採用することで、取引コストが減り、改革が進めやすくなるだろう。

他方、コストを下げるだけではなく、メリットの側面を強めることで、取引コストの影響を抑えることもできる。そのために注目されているのが、環境の変化に対応して、既存の経営資源を再構成して生かす「ダイナミック・ケイパビリティ」(変化適応的な自己変革能力)である。

 

それは、デジタルカメラの普及で写真フィルム事業が消滅する中、既存のフィルム技術を活かして化粧品事業に進出した富士フイルムや、多様な国々に変幻自在に適応してファスナーを製造販売しているYKKが持つ能力のことである。このような能力を用いて、プラスの側面を強めれば、たとえ取引コストが高くても、組織は変革できるだろう。

しかし、このような経済合理的マネジメントには限界がある。というのも、政策の形成と実行それ自体にコストが発生し、そのコストがあまりにも大きい場合、何もしない方が合理的という新たな不条理に巻き込まれるからである。

この不条理の罠から抜け出すためには、損得計算を行う理論理性とは別の、より高次の理性が人間には必要となる。それは、哲学者イマニュエル・カントのいうところの、ものごとの良し悪しを価値判断する「実践理性」である。

リーダーは、損得計算の結果つまり業績が悪くても、実践理性のもとに正しいことを行おうとしている従業員を評価し、育てる必要があるだろう。これによって、取引コストを含む損得計算結果を考慮しつつも、あえて正しいことを行おうとする人間組織が形成されるだろう。

しかし、従業員だけではなく、リーダー自身もまた理論理性のもとに損得計算するだけではなく、実践理性のもとに正しいかどうか価値判断する人間でなければならない。

このようなリーダーは、新規プロジェクトを扱うとき、まずそれが儲かるかどうかを徹底的に損得計算し、その上でこのプロジェクトが正しいかどうかを価値判断するだろう。そして、もしそれが儲かるプロジェクトであっても正しくない場合にはこれを阻止し、逆に儲からないが正しいと判断できるプロジェクトであれば、実践しようとするだろう。

不条理な不正を回避するには、こういったリーダーが必要だ。このような従業員とリーダーからなる組織は、不条理な不正に巻き込まれないのである。