神戸製鋼所を改ざんの巣窟にした「純日本型」不正のメカニズム

人間も企業も関係が過密だからこうなる
菊澤 研宗 プロフィール

神戸製鋼所で起きた不条理の分析

以上のメカニズムのもとに、神戸製鋼所の不正について分析してみよう。神戸製鋼所をめぐる企業間関係は、相互に密接な関係にあったものと想像できる。その関係は、信頼と伝統にもとづくものであり、一夜にして生まれたものではないだろう。

こうした密接な組織的な関係のもとで、取引相手から物理的に達成困難な要求や注文が来た場合、どのようにして企業は対処するのだろうか。拒否したり、納期を遅らせたりすれば、みんなに迷惑をかけることになり、面倒なことになる。それゆえ、その交渉・取引コストは非常に高いだろう。

このような取引コストを節約するために、従来、神戸製鋼所は、部材が納入先との契約内容と異なっていたとしても、それが部材として使用できる場合、納入先の了承を得て出荷していた。このような行為は、「特別採用」を略して「トクサイ」と呼ばれ、ある種のアウトレットのようなものとして扱われていた。

ところが、やがて納入先からの要求が厳しくなり、特に納期を守るように厳しく求められるようになった。というのも、製造業者は効率性を高めるために過剰在庫を避け、部材一つの納期が遅れても生産工程がストップしてしまうような無駄のない生産システムを構築するようになったからである。

 

この厳しい要求のもとに、高い交渉・取引コストを節約するため、神戸製鋼所は「トクサイ」ではなく、納入先の了承をえることなく、契約内容に合うように数値を改ざんしたのではないか。つまり、不正を行うことが合理的になるという不条理に陥ったように思える。

しかも、このような行動は、トップの明確な意思のもとで行われたとは思えない。表面的には、なんとなくあいまいに従業員が空気を読んで行ったように見える。しかし、理論的には、一人ひとりが交渉・取引コストの大きさを忖度して損得計算し、その結果、データ改ざんという不正を行った方が合理的という点で、計算結果が一致したのだろう。

そして、その後、この合理的不正はルーティン化され、新たに配属された従業員がその不正に気づくことがあっても、それが伝統的になされてきたものであり、それを変更するための取引コストがあまりにも高いために、不正は合理的に継続されてきたという二次的な不条理に陥ったのではないかと思える。

このような不条理に陥っている企業は、おそらく神戸製鋼所だけではないだろう。免震ゴムの性能データ偽装を行った東洋ゴム工業でも、同じことが起こっていたのではないか。そして、他にも同じような不条理に悩んでいる日本企業は多いのではないかと思われる。