神戸製鋼所を改ざんの巣窟にした「純日本型」不正のメカニズム

人間も企業も関係が過密だからこうなる
菊澤 研宗 プロフィール

不正を犯す人間の組織のメカニズム

このような首謀者なき日本的不正や不祥事は、1998年にノーベル経済学賞を受賞したロナルド・コースや2009年にノーベル経済学賞を受賞したオリバー・ウイリアムソンによって展開された「取引コスト理論」によって、よりよく説明できる。

正統派経済学である新古典派経済学では、すべての人間は完全に合理的で、利益を最大化することを目的とすると仮定される。

もし、本当にすべての人間が完全合理的なならば、一人ひとりが無駄なく資源を利用でき、行動できるので、個々人の効率性と全体の効率性は等しくなる。つまり、個別合理性と全体合理性は一致する。また、人々は不正を犯すことなく利益を追求できるので、効率性と正当性も一致するだろう。それゆえ、新古典派経済学では、不条理な現象は起こらない。

しかし、実際には、今日、多くの企業が個別合理性と全体合理性不一致の問題に悩まされているし、多くの企業不祥事が発生しているのである。これは、人間が完全合理的ではないからである。現実の人間は限定合理的であり、人間の合理性は限られている。しかも、人間は隙あらば利己的利益を追求するという機会主義的な傾向ももっている。

 

このように、人間が限定合理的で機会主義的ならば、取引する場合、互いにだましあったり、だまされないように相互に忖度し、無駄な駆け引きが起こるだろう。この人間関係上の無駄のことを「取引コスト」と呼ぶ。これは、会計上には表れない見えないコストである。

このコストの存在を理解すると、以下のように合理的不正や合理的非効率性といった不条理が発生することがわかる。

たとえば、いま現状が不正な状態、あるいは非効率的な状況にあることに気づき、この不正な状態を是正し、より効率化しようとする場合、現状に既得権益をもつ多くの人々を説得する必要があるだろう。このとき、彼らを説得する取引コストは高い。

しかも、現状を変化させれば、これまで投資してきた資金が埋没コストになったり、このまま維持すれば、今後、得られたであろう利益も逸失することになる。つまり、機会コストが発生する。

これら一連のコストを忖度すると、現状の非効率性を維持し、不正な状態を隠蔽し続けた方が合理的となるだろう。こうして、合理的不正や合理的非効率といった不条理が発生することになる。

日本のような人間関係が密な世界では、一般に取引コストは高くなるので、従業員はこの取引コストを忖度して損得計算を行い、合理的に不正に手を染める可能性が高い。こうして、不正は上からの命令によってではなく、自生的に発生する可能性がある。