いまこそ、平成ニッポンのタブーを語ろう

森達也×武田砂鉄『FAKEな平成史』
武田 砂鉄, 森 達也 プロフィール

とても残念な出来事

武田: そうか、今日はその本の中身の話をするんでしたね(笑)。本書は、今まで作ってきた森さんのドキュメンタリー作品を、第三者の目線を入れながら、振り返るという一冊ですね。

森: 平成が始まる少し前、テレビの仕事を始めました。最初はもちろんADだから、ただ番組制作のために駆け回っていましたが、まずは昭和天皇崩御があって、ベルリンの壁が崩壊して、天安門事件が起きて……これ全部、平成元年です。

昭和天皇崩御による「自粛」から平成が始まり、そして、阪神大震災、地下鉄サリン事件……それらの事件を、自分が作った映像作品についての記憶を縦軸にしながら、平成という時代を振り返っても面白いかなと思ったんです。自分で書くのは面倒だから(笑)、いろんな人へインタビューをして構成しました。

日本を震撼させた地下鉄サリン事件(Gettyimages)

武田: 最初の章では、「放送禁止歌」をテーマに、ピーター・バラカンさんと対話されている。そこで触れられている「P!nk」という女性のシンガーソングライターが発表した「ディア・ミスター・プレジデント」という曲の存在を初めて知りました。「親愛なる大統領、ちょっと一緒に歩きませんか ごく普通の人間として」と始まる曲は、アメリカによるイラク侵攻後に発表された楽曲です。

僕はピンク・フロイドが好きなんですが、今、そのメンバーであるロジャー・ウォーターズがソロツアーをしていて、彼はライブ会場に大きな豚の風船を飛ばし、その豚にドナルド・トランプの顔をプリントして揶揄している。ライブの最後に撒かれる紙吹雪には、その一枚一枚に「抵抗せよ」と書いてある。

政治色が強い、というか、ほぼ全て政治色です。こういうことができる大御所ミュージシャンが欧米には平然といます。日本の音楽界にはごく一部を覗けばメジャーなフィールドにいませんね。

 

森: まったくいないわけではないけれど、表には出てこない。求められないから、淘汰されて少なくなるのもあるでしょう。少なくともメジャーの世界にはいない。

でも、海外ではニール・ヤングだったり、ブルース・スプリングスティーンだったり、ビッグネームが公然と政権を批判する。日本で言えば、サザンであったり、ユーミンであったり、中島みゆきであったり、その人たちが、反体制的な歌をテレビで普通に歌うようなものであって。日本でそれをやったらどうなるのか。

武田: 2014年の年末、桑田佳祐がライブで、その年に受賞した紫綬褒章をポケットからひょいと取り出してぞんざいに扱ったり、紅白歌合戦の中継でちょび髭を付けて登場したことが問題になりました。所属事務所前で抗議デモが行われた事も影響したのか、本人が謝罪文を出しました。

謝罪文の中には「つけ髭は、お客様に楽しんで頂ければという意図であり、他意は全くございません」という文言がありました。その一年前に発表された楽曲「ピースとハイライト」のPVでは、安倍首相や朴槿恵大統領のお面をかぶった人を登場させ、その映像をこの日のライブでスクリーンに流していた。明確なメッセージです。

でも謝罪文ではそのような「他意は全くございません」と言う。なぜこのような文言を出したのか、とても残念な出来事でした。

森: 首相に批判的な質問をすれば失礼だと抗議が来る。でも欧米の記者クラブでは、メディアが政治権力と対峙することは当たり前。同じ構造かな。ロックは体制批判して当たり前。でもこの国では、音楽に政治を持ち込むなとの意見が正論になってしまう。

音楽だけじゃない。『FAKEな平成史』でピーター・バラカンさんが言っているけれど、アメリカでは権力を茶化すトーク番組がたくさんある。若い世代はそうした番組をゲラゲラ笑いながら見て、同時に政治や社会に興味を持つ。「ザ・ニュースペーパー」とか松元ヒロさんのコントのような芸が、もっと普通にテレビで観ることができる社会のほうが、ずっと健全だと思います。