いまこそ、平成ニッポンのタブーを語ろう

森達也×武田砂鉄『FAKEな平成史』
武田 砂鉄, 森 達也 プロフィール

国民がメディアを抑えつけようとする奇妙

武田: 森さんも繰り返し書かれていますが、バラエティ番組では、笑う時に顔の前で拍手しながら、時に立ち上がりながら笑う。「ここは笑う場面だよ」と全員で同調するのが面白い笑い、だからみんなもここで笑ってくれ、という伝達になっている。

先日、あるお笑い芸人とラジオで共演したのですが、そういう同調性が笑いのパターンを狭めているのではないか、笑いのポイントを強制しているのではないか、といった話を投げると、納得しつつも苦笑いされていた。特定の人物や事象を皮肉るという観点が、いたずらに暴力的なことと処理され、同調して安堵する笑いが増えていますよね。その同調性こそがイジメっぽい笑いを作り上げるわけですが。

森: 政治も一緒ですよね。

武田: そうですね。たとえば麻生太郎が失言しました、と報じられれば、信奉者は必ず「揚げ足をとってどうするんだ」「彼の真意を聞かなければいけない」と切り返してくる。

いや、そうじゃない。言葉に責任を持つべき立場の人が発言したのであれば、それを批判するのは当たり前の行為だ、と思うわけだけど、皮肉や批判をぶつけた時に、エラい人になんてこというんだ、などとクソ真面目に潰してくる、ということがとても多い。「全文を読め」という回避もあるけれど、全文読んでも変わらないことが多い。

森: 芸能でも政治でも、アイロニーやパロディが有効にならなくなった。

武田: 求められていないんですね。

 

森: 結果として失言や舌禍が多くなる。たとえば、安倍首相が解散の際に記者会見で「民主主義の原点である選挙が、北朝鮮の脅かしによって左右されるようなことがあってはなりません。むしろ私は、こういう時期にこそ選挙を行うことによって、この北朝鮮問題への対応について国民の皆さんに問いたいと思います」と言いました。

これ、意味わかる? 後段と前段の趣旨がまったく逆です。だって今回の選挙は、まさしく北朝鮮の脅威が自民党の追い風になったわけですよ。

投票前に記者クラブで党首討論やりましたよね。そこで安倍首相が朝日の坪井ゆづる論説委員の質問に対して、「朝日新聞は八田(国家戦略特区ワーキンググループ座長)さんの報道もしておられない」と返し、質問した坪井記者が「しています」と反論すると、「ほとんどしておられない。しているというのはちょっとですよ。アリバイ作りにしかしておられない。加戸(前愛媛県知事)さんについては、証言された次の日には全くしておられない」と発言しました。

この少し前、国会で加計問題についての審議をしていたとき、加戸前知事の話が、朝日新聞にはまったく載っていないとネットで盛り上がっていた。ソースは産経新聞です。おそらく、安倍首相もこういうネット上の意見を参考にしていたんじゃないかな。朝日の紙面を見れば明らかです。どちらも何度も記事として掲載されています。

武田: たしか10回くらいは載せていたんですよね。

森: 八田さんの記事は12回です。産経新聞の阿比留瑠比論説委員は党首討論の翌日、「朝日がいかに『(首相官邸サイドに)行政がゆがめられた』との前川喜平・前文部科学事務次官の言葉を偏重し、一方で前川氏に反論した加戸氏らの証言は軽視してきたかはもはや周知の事実」と首相発言を擁護する趣旨の記事を掲載しました。でも産経は八田さんの発言についての記事は4回だけしか掲載していない。朝日の三分の一。何なんだろこれ。産経はもはや新聞とは言えないんじゃないか。

武田: 愕然とします。

森: この党首討論では、終わってから日本記者クラブに、朝日と毎日の記者に対しての抗議の電話が殺到したらしい。内容は「首相に対して失礼だ」「あんな質問を許していいのか」だったそうです。電話をかけてくるのは年配の世代でしょうね。若い世代はネットに書いているんだろうけど、メディアが最高権力者に質問することが失礼であるとの感覚が前面に出てきている。

独裁国家なら無理やりにメディアを押さえつけるけれど、この国では国民がメディアを押さえつけようとする。こうして独裁的な体制が民主主義的手続きで完成する。不思議です。でもナチスドイツもそうでした。

武田: 森達也が気に食わないから、アイツに文句を言いたい……だからまとめ記事を作って炎上させる。自分で、ではなく、みんなで一緒になって文句を言いたい。繰り返しますが、そのソースが1年前で、誰もそのことを指摘しないというのが異様です。しかし、何十万人も見ているのだったら、自著のAmazonリンクを貼るなどすれば販促活動になるかもしれませんよ(笑)。1年前の記事だとすら気付かない人達のいくらかが、うっかり買ってくれるかもしれない。

森: 『FAKEな平成史』のAmazonの評価欄に、保守速報の記事をそのままコピペされています。評価は星一つ。あれは営業妨害だなあ。