トランプが抱える「内輪揉め」に、日本も巻き込まれる可能性

元側近が不穏な動きを始めた
海野 素央 プロフィール

共和党をぶっ壊す

一方でトランプ大統領にとっては、支持基盤の確保と米上院の共和党議席数増加のために、バノン氏と同氏を信奉する保守強硬派「バノン軍団」の協力が欠かせません。

与党共和党は上院で52議席を占める多数派ではありますが、野党民主党が議事妨害(フィリバスター)を行なった場合、阻止できません(議事妨害の打ち切りは、60人以上の議員の賛成が必要です)。そこで、トランプ大統領は上院で共和党が議席数を増やすことを強く望んでおり、バノン軍団の戸別訪問を中心とした草の根運動に期待しているのです。

このような理由から、両氏の関係は対立というよりも相互依存の関係になるでしょう。

一方で、今後バノン氏との対立を深めていくであろう共和党の重鎮が、党主流派の代表格、ミッチ・マコネル上院院内総務です。バノン氏は、自身の支持者に向けて「この戦争は私の戦争ではない。我々の戦争だ。我々が始めた戦争ではない。(共和党主流派という)エスタブリッシュメントが始めたのだ。我々は勝つだろう」と述べ、マコネル上院院内総務に「宣戦布告」をしています。

バノン氏が仕掛けた舌戦に、彼の支持者は早くも同調しています。

バノン氏が会長を務める極右サイト「ブライトバート・ニュース」は、ハーバード大学とハリス調査会社による共同世論調査(2017年10月14-18日実施)の結果をネット上に掲載しています。この調査によりますと、共和党支持者の実に56%が「マコネル院内総務は辞職すべきだ」と回答し、氏に好感を抱いているという回答はわずか16%でした。

また、共和党支持者の61 %が「減税、強硬な反移民政策、そしてオバマケアの廃案を支持しない共和党現職議員は、米議会から追放しよう」というバノン氏の運動に支持を表明しています。同党支持者の56%が、「バノン氏の努力が共和党をより強くする」と肯定的な回答をしている点も注目です。

ちなみに、この調査でもトランプ大統領の支持率は80%で、先に紹介したロイター通信とイプソスの共同世論調査とほぼ同様の結果が出ています。3人の人気度ランキングは、トランプ大統領、バノン氏と続き、かなり離れてマコネル院内総務という順番になるわけです。

マコネル院内総務を支持する利益団体は、来年の中間選挙に向けて、バノン氏と同氏が応援する保守強硬派の候補者を白人至上主義と結びつけ、信用を傷つける戦略に出るのではないかと目されています。他方、バノン氏は軍団を使い「戸別訪問を中心とする草の根運動を展開して中間選挙を戦う」と宣言しています。

来年、日本が利用される可能性

さて、トランプ大統領にとって就任後初となる来年の中間選挙は、日本にも大きな影響を及ぼしかねません。バノン氏が、通商政策を中間選挙の主な争点としてくる可能性が十分あるからです。

2016年米大統領選挙でも目の当たりにしたように、他国を標的にした貿易・雇用問題は、米国の有権者の心と票を動かします。しかも、主として白人労働者及び退役軍人から構成されているトランプ大統領の支持基盤は、これらの話題に特に敏感に反応する傾向があります。

選挙の結果、バノン氏が支援する保守強硬派の議員が多く当選すれば、トランプ政権に加えて、米議会までも日米の2国間による自由貿易協定(FTA)を強く迫ってくるようになり、通商協議が一気に加速することになるでしょう。

日本政府はこれまで北朝鮮問題を前面に出して、朝鮮半島における非核化を日米の共通目標に掲げ、その一方で2国間自由貿易協定の問題では、トランプ政権とがっぷり四つに組むことを回避してきました。立ち合いでうまくかわす相撲をとってきたわけです。

しかし、日本政府のこの戦術も、中間選挙でバノン氏がマコネル氏を撃ち破れば、まったく機能しなくなってしまうかもしれません。「バノン氏vs.マコネル氏」の対立が注目される来年の中間選挙の結果は、日本の対米政策においても分岐点となるでしょう。