トランプが抱える「内輪揉め」に、日本も巻き込まれる可能性

元側近が不穏な動きを始めた
海野 素央 プロフィール

ことに、来年11月に行われる中間選挙で再選を狙っている共和党の現職議員にとっては、下手にトランプ批判をすれば支持者が離れ、同予備選挙で敗北するかもしれません。共和党内でもトランプ大統領に反感を抱いている議員は多いのですが、コーカー議員やフレイク議員のように政界引退を決めた人物でもない限り、大っぴらな批判は難しいという事情もあります。

ただ、そうは言っても「トランプ一強」は、「習一強」及び「安倍一強」と比較すれば、まだ健全な民主主義であると言わざるを得ません。共和党議員が、共和党の大統領であるトランプ大統領を公の場で強く批判しているからです。

中国では、先日行われた第19回共産党大会で「習近平思想」が共産党の規約に明記されたため、絶対的な権力を得た習近平氏に党員が挑戦することは不可能になったと言われています。日本では、安倍晋三首相に対しては、自民党内からの批判は、OBの議員も含めてほとんど聞こえてきません。「異論を排除する一強」「異論が出ない一強」は、共に民主主義の理念からズレていると言ってよいでしょう。

あの元側近の「不穏な動き」

さて、注目されているのが、トランプ大統領のもとを離れた元側近、いわば「究極の身内」だったスティーブン・バノン氏の動向です。

米ウォール・ストリート・ジャーナル紙(電子版)でマイケル・ベンダー及びジャネット・フック両記者は、「トランプ大統領とバノン元首席戦略官兼大統領上級顧問が、共和党議員を巡って対立色を強めている」と報じています。

というのも、9月に行われた、南部アラバマ州上院補欠選挙の共和党予備選挙で、トランプ氏とバノン氏は異なる候補者を支持しました。しかも両氏は現地に入り、それぞれの候補者の支持を有権者に直接訴えたのです。

その結果、バノン氏が支持した保守強硬派のロイ・ムーア元同州最高裁長官が、トランプ大統領が推した現職のルーサー・ストレンジ上院議員に対し、約10ポイント差で勝利を収めました。

なお、選挙結果が出ると、トランプ大統領はツイッターに投稿したストレンジ上院議員支持の書き込みの一部を削除したとして非難を受けました。たとえツイッターの投稿であろうと、大統領が公の場で書いたものは「公文書」とみなされるからです。

しかし筆者は、中間選挙を巡るトランプ大統領とバノン氏の関係について、前述の2人の記者とは異なる見方をしています。トランプ・バノン両氏はお互いの利用価値を認めているため、相互依存の関係を築くのではないか、ということです。

その主たる理由は、2人のアジェンダ(議題)にあります。

共和党が掲げるアジェンダとトランプ大統領のそれは同じではありません。むしろ、トランプ大統領のアジェンダは、バノン氏のそれと共通しています。

共和党主流派が自由貿易推進である一方、トランプ大統領とバノン氏は周知の通り、北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉や環太平洋経済連携協定(TPP)の脱退に賛成の立場をとっています。

またバノン氏は「経済ナショナリズム」の実現を目指しています。同氏は、「経済ナショナリズムでは人種、肌の色、ジェンダー、民族、宗教ならびに性志向は関係ない。米国市民か否かが問題だ。米国市民であれば、雇用や経済的な機会が与えられるべきだ」と唱えています。

裏を返せば、「経済ナショナリズムでは、非米国市民、特に不法移民には雇用や経済的な機会を与えない」ということになります。バノン氏は「アジアに進出した製造業を米国に戻す」と強く主張しています。こうしたバノン氏の主張は、トランプ大統領のそれと非常に重なっているのです。

バノン氏は、自分の夢である経済ナショナリズムを実現する「アクター」を必要としていて、その格好の対象がトランプ大統領であるとも言えます。バノン氏は、トランプ大統領を経済ナショナリズム遂行のための「駒」として見ているのでしょう。