費用対効果が良すぎる「漬物」驚くべき効果

決して主役にはならないけれど…
小泉 武夫

くさやの漬け汁を飲む!?

昔の人は、漬け物を食べるとき、漬けあがった野菜だけを食べたのではなく、二日に一度は漬け床をぬるま湯に溶いて飲んだという。糠味噌などは、まさに乳酸菌の宝庫であり、あたかも西欧人がヨーグルトや乳酸菌飲料を摂取するのと、そう変わらぬことを知っていたかのようである。

そういえば「腹の具合が悪くなったら、くさやの漬け汁をぬるま湯に溶いて飲む」と語ってくれた伊豆七島・新島の古老の話や、東北の山間でやはり聞いた「茸の塩漬け汁をぬるま湯で割って飲む」という風習は、いずれも有益な腸内細菌を体内に送り込む、整腸剤としての知恵だったのだろう。

漬け物は日本人だけのものではなく、加工食品の中では最も古い歴史を持ったもので、人間のつくったうれしい食の文化のひとつである。従って、地球上のほとんどの民族が共有する嗜好物なのであり、それ故にそれぞれの民族はこれに親しみや憧れ、時には浪漫まで寄せながら長い歴史の中で育て上げてきた。

野菜の根や茎、葉ばかりでなく、魚介や肉、果実まで漬け物の材料としてきたが、そこには人類の深い知恵が込められてきた。

たとえば、漬け物を漬けることにより、香味を豊かにしながら保存性まで高めることができ、また、それを食べることで食欲が昂進するとともに、体にとって大切な有効成分まで摂取することもできるようにした。

漬け物の起源が有史以前に遡るとされていることを考えると、人類は漬け物をつくることを通してさまざまなことを学習し、多くの知識を積み重ねてきたといえる。

このたび、『漬け物大全 世界の発酵食品探訪記』(講談社学術文庫)を上梓するにあたり、漬け物とは何か、なぜ漬けあがるのか、漬け物に寄せる人間の憧れなどを、食文化的、文化人類学的、微生物学的、栄養学的視点などから記述した。本書から、なぜ人間は漬け物に食指が動くのかを理解することができよう。

読書人の雑誌「本」2017年11月号より