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W・ブッシュ元大統領の株が、トランプ以後のいま急上昇している理由

アメリカの保守vs反動
池田 純一 プロフィール

共有された「記憶」のゆくえ

ブッシュ家は、昨年の大統領選でジェフ・ブッシュが共和党予備選に立候補していたこともあり、その頃からトランプ批判を繰り返してきたのだが、今回、Wブッシュ本人から強い口調で、本来の共和党の保守、アメリカの保守のあり方が語られた。

トランプの当選や(先日ホワイトハウスの要職からは解任されたものの)スティーブ・バノンの台頭によって、共和党において、反動主義の傾向が強まっていたわけだが、その流れに抗って、Wブッシュはむしろ、本来の「保守」のあり方を明確にしようとした。

Wブッシュは、劣勢に立たされた共和党保守本流の代弁者として再登場したわけだ。裏返すと、反動の登場で、従来反リベラルという意味しか持ち得なかった保守の位置づけが、むしろ明確になりつつある。

トランプの公約の一つである“America First!”という孤立主義的姿勢が、Wブッシュが大統領在任時に従ったネオコン的な姿勢、アメリカの理念を世界を行き渡らせるという点で国外進出的な外交姿勢と相容れないためなのだろうが、結果的には、従来の「保守」に一種の安心感や信頼感があったかのような印象を与えることにつながっている。

 

アメリカの対外的な開放性については、Wブッシュだけでなくオバマもその意義を主張しているため、共和党と民主党の元大統領が揃って、アメリカの開放的な民主的価値を大切にしようと呼びかけていることになる。

アメリカン・デモクラシーを守る、という点では、党の隔たりなどなくおよそ政治や公職に務めるものなら当然だ、だからその点では一致団結する、というようにも見える。

ただ、トランプ旋風を見届けてしまった後だけに、仮に首尾よく団結できたとしても、その結果むしろ、アメリカン・デモクラシーを守るという目的自体、単に(イェールやハーバードを卒業した)エリートが支持したがる政治的信条に過ぎないと受け止められてしまったらどうなるのか。そのような不安がよぎらないわけでもない。

もちろん、そんなことはないと信じたいところだが、デモクラシーの支持と非支持で、万が一アメリカが割れるようなことがあるとしたらどうか。デモクラシーもただの政治システムの一つであることが明らかにされ、デモクラシーそのものの信頼が失墜したりはしないのか。

このように見てくると、Wブッシュが取り出した“American Creed”とは、文字通り“Creed(信条)”として、人びとの間で共有されることで「生きて」くる記憶であることがよくわかる。

そのような、一国の共有の記憶の去就を扱ったのがイシグロの『忘れられた巨人』であった。

だとすれば、彼が今、ノーベル文学賞を授与されたことも理解できる。「記憶」こそが現代社会の最大の関心事だからだ。イシグロがその記念碑として取り上げられたのは至極当然のことだった。時宜にかなっていたのである。

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