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W・ブッシュ元大統領の株が、トランプ以後のいま急上昇している理由

アメリカの保守vs反動
池田 純一 プロフィール

リラ本の中にはユダヤ教やイスラム教などへの言及もあるので、ここまで単純化するのは行きすぎかもしれないが、少なくとも反動主義者が保守主義者と異なり近代化の成果まで否定するのは、基本的にそれらが(カトリックに対抗した)プロテスタントによる成果だからだ、ということのようなのだ。

昨年の大統領選でも、スティーブ・バノンも関わる(白人優越主義などを掲げる)Alt-Right がどうして中世社会を求めるのか、理解に苦しんだのだが、こういうことなら一応納得はできる。

根っこにあるのは、アメリカの没落への憂慮だけでなく、西洋世界全体の没落に対する憂慮だからだ。

国を越えた精神的紐帯という、かつてカトリック教会が示した汎欧州的な精神的共同体という発想がない限り、なかなか思いつくことはできない(この点では、現在のイスラム諸国とイスラム教の関係と似ている。そのためか、リラはイスラム教のことについてもしばしば本書の中で触れている)。

そして、そのような「西洋全体の危機思考」を北米のアメリカ社会に植え付けたのが、リラがこの本の中で紹介する、20世紀初頭の大戦期に移民してきた、主にはドイツ出身の亡命知識人だった、ということになる。

たとえば、反動の思索家の一人として紹介されるエリック・フェーゲリンは、啓蒙主義以降の動きは、概ね中世のカトリック教会では異端とされていたグノーシス主義が形を変えたものだと述べたりする(グノーシス主義については以前、人工知能について扱かった時にも触れたことがあった)。

啓蒙主義、進歩主義、科学主義、マルクス主義、共産主義、ナチズム、……といった近代以後の思潮は、何であれ、カトリックの教えに抵抗した異端思想としてのグノーシス主義と同類だということになる。

裏返すと、かつての異端思想が現代を席巻しているわけで、その異端を正常に戻そうとするなら啓蒙主義以前に戻らなければならないし、その際、正常の基準となるのはカトリック教会の教義ということになる。

 

急上昇するWブッシュの株

異端に侵食される近代以前の世界こそが「正常」かつ「清浄」な世界であったのだから、近代以前の世界に戻ることが、「反動」の中核になる。これは明確に「保守」とは異なる発想だ。

保守は、仮にも近代という仕組みの中で、前進する。無条件の一本道の進歩には懐疑の眼差しを向けるものの、前進することを否定するわけではない。都度、悩みながらそれでも進め、という考え方だからだ。

興味深いことに、こうした「反動」と「保守」の対立の中で、最近になって株が急上昇しているのが第43代アメリカ大統領を務めたジョージ・W・ブッシュだ(以下「Wブッシュ」)。

ジョージ・W・ブッシュジョージ・W・ブッシュ氏〔PHOTO〕gettyimages

トランプ以後の共和党が、保守主義を半ば放棄し反動主義に転じているように見えているところで、本来の保守主義を取り戻そうという声が、共和党の中からも上がりつつある。どうやらそうした期待に応えたもののようだ。

2009年1月に2期8年の大統領職を終えテキサスに戻って以後、Wブッシュはほとんど公の場に出ることはなかった。テキサスの自宅に篭り、もっぱら絵描きとしての余生を過ごしてきた。今年2017年の2月には、退役軍人の肖像画集を出版して話題になったが、政治の場に現れることはほとんどなかった。

そのWブッシュが、去る10月19日にニューヨークで久方ぶりにスピーチを行った。その際、トランプの名を直接挙げることはなかったものの、いわゆる「トランピズム」に連なる、白人優越主義、女性差別、人種的偏見、などの風潮がアメリカの政治を覆いつつある現状を、“Against American Creed(アメリカの信条にもとる)”行為として激しく非難した。

とりわけ、本来は国民統合のためだったナショナリズムという言葉が、いつの間にか、排外的なネイティヴィズムの意味に転じている状況を憂いていた。拡大糾合の論理だったはずのものが、気がつけば排斥の論理に転じていることに異を唱えていた。