iPS細胞、ゲノム編集…「不死社会」は人間を幸せにするか

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遺伝子レベルで治療する

細胞を人工的に培養して修復するのと同様に、細胞の「遺伝子」も自由に操作できるようになった。これを「ゲノム編集」という。ざっくりいえば、特定の遺伝子の文字列を、ワードソフトで原稿を直すようにピンポイントで書き換えることができる。

「遺伝子組み換え」技術は'70年代から実用化されていて、普段の生活で目に留まることもある。だがこの技術は精度が低く、特定の遺伝子を組み換えることはできない。

そのため、一つの遺伝子を組み換えるために何万回もの試行を繰り返す必要があり、そのぶんリスクとコストが大きいのだ。それに比べるとゲノム編集に用いられる手法はより精密で、だからこそ複雑な構造に対応する。

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ゲノム編集で最もいま研究が進んでいるのが、「クリスパー・キャスナイン」という手法だ。いったいどんな技術なのか。情報セキュリティ大学院大学客員准教授の小林雅一氏はこう解説する。

「動物のDNAを操作し、病気を引き起こす遺伝子に変異しそうな部分だけを修正できる技術です。筋ジストロフィーやがんなど、根治が難しい病気を、遺伝子レベルで治せる可能性があるのです」

 

この遺伝子修正技術は、iPS細胞との組み合わせで真価を発揮する。遺伝子異常によって筋力が低下していく筋ジストロフィーの例でいえば、患者の皮膚からiPS細胞を作る。その細胞には病気を引き起こす原因遺伝子が存在するため、ゲノム編集で変異部分を修正し、病気を発症しない筋肉細胞を生み出す。

これを患者の体内に移植すれば、これまで治療法の糸口が掴めなかった難病も治すことができるという仕組みだ。

「遺伝子を『修正』すると聞くと怖いと思う人もいるかもしれませんが、たとえば食事で足りない栄養をサプリメントで補うのは現代では当たり前のこと。

同じように、老化で衰えてきた細胞の分化を助ける、という意味でゲノム編集の技術は普及していくと考えています」(クーパー・ユニオン大学教授のオリバー・メドベディック氏)