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日本で生まれ育った若者が「北朝鮮工作員」にされるまで

私が出会った北朝鮮工作員たち 第4回
竹内 明 プロフィール

「すべては偽装だった」のか

Yの面倒をみた大学院OBも、Yの立場をこう慮る。

「工作員ではなく、本国とのメッセンジャーだったんだろう。本国との連絡に暗号を使うのは、工作員でなくてもやりますからね。日朝の架け橋になりたいというYの言葉は純粋に思えた。人生をやり直したくて行動しているように見えたんだけど……」

だが、公安捜査員はまるで逆の指摘をする。

「Yが日本に帰化したのは、偽装転向だ。警察の目を欺くために、日本国籍を取得していたに過ぎない。すべて本国の指示だ。

公開情報を集めるスリーパーが、本国の意向で政治工作にまで手を伸ばそうとしていた。彼は『アクティブ』の工作員だったんだ」

工作員による政治工作、英語では「アクティブ・メジャーズ」と呼ばれる活動にYが乗り出そうとしていたと、この公安捜査員は見ている(前述のとおり、Yはこれらの疑いを否定しているという)。

 

北朝鮮の工作機関は、なぜ日本で生まれ育った若者たちを利用しようとするのか。

ある北朝鮮担当の公安捜査員は、こう明かす。

「在日の補助工作員が本格的な工作活動をしようとすれば、朝鮮籍のままでは、まるで身動きが取れない。合法的に日本人になると偽装にもなるし、動きやすいんだ」

「日本国籍を持つ工作員は宝です」

日本国籍を獲得することは、日本での工作活動を容易にするという意味があるだけではない。私が取材した元北朝鮮工作員は、工作活動をする上での日本旅券の価値を、こう認めていた。

日本の旅券は万能です。対日工作はもちろん、対南(韓国)工作、その他のどの国でも信頼されている。

工作機関が真正の日本旅券を手に入れる方法は二つ。日本人を拉致して、その人物になりすますこと。でも、なりすました工作員の日本語に訛りがあったりするとばれてしまう。もっとも安全なのは、日本で教育された在日朝鮮人を工作員にして、帰化させ、日本人として旅券を手に入れることです」

こんなケースもある。在日朝鮮人の父親、日本人の母親の間に生まれ、日本国籍を持つことになったある青年は、朝鮮学校から慶応義塾大学に進学。卒業後は北朝鮮の指示で、オーストリアのウイーンに留学し、そのまま北朝鮮のための工作活動を行ったという。

ある朝鮮大学校関係者はこう語る。

「在日の若者を工作活動に使うためには優越感をくすぐるのです。高校時代から『おまえは熱誠班だ、特別だ』と言われ、修学旅行で平壌に行くと、有能な学生が呼ばれて特別待遇を受ける。その学生には『俺は特別なんだ』という優越感が植え付けられます。でも、この優越感は日本社会では通用しない。

閉ざされた朝鮮学校で育ち、優秀だといわれた若者も、いざ日本社会に合流するとうまくいかない。差別を受けることもあるし、日本企業での熾烈な出世競争に敗れることもある。そういうときに、『じゃあ、北の社会で偉くなってやろう』という気持ちが芽生えるのも自然なことではないでしょうか」

一度は優越感にひたるよう仕向けられた若者が、日本社会の荒波に晒されて、逆に本国への忠誠心を高める。こんな現実が利用されるのだ。若者たちの心の動揺につけこむ工作機関の手法は、実に冷酷だ。私が取材した元北朝鮮工作員は、こうも話した。

日本国籍を持ちながら、思想的にも民族的にも目覚めた若者は、北朝鮮の工作機関にとって宝です

指導者の言うことをよく聞き、疑問を差し挟まない真面目な若者。利用されるのは、そんな青年たちだという。

本来なら、生まれ育った日本社会に親しみを持っているはずの若者たちの心の隙間に、彼らの日本国籍を利用しようとする組織は忍び込み、工作員に仕立て上げ、利用していく。

北朝鮮にいる家族や親類を人質に取られ、工作員に協力させられる在日朝鮮人たちの話を以前に書いたが、若者たちの真っ直ぐな心さえも、工作機関は冷徹に利用しているのだ。

スパイ大国・北朝鮮の工作機関は、こうして日本国内でも多数の「犠牲者」を巻き込みながら、確実に社会の各方面に根を張っている。私たち日本人は、まずその事実に冷静に目を向けなければならないだろう。

(第5回はこちらから)

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