2017.10.29
# 北朝鮮 # インテリジェンス

日本で生まれ育った若者が「北朝鮮工作員」にされるまで

私が出会った北朝鮮工作員たち 第4回
竹内 明 プロフィール

Yは大学院OBに相談、日本政府との接触を希望する。研究者であるこの大学院OBはYが携えたメッセージを拉致対策本部に報告、当時の拉致対策担当大臣の松原仁氏に引き合わせようと試みたという。

「Yは東南アジアなどに行って北朝鮮の軍関係者と接触していた。本国の意向を聞いて、日本政府に伝えようとしていた」(大学院OB)

本国の意向で、Yは日本政府との対話の窓口を探していたというのだ。

発見された「隠語」と「スパイの技術」

Yが詐欺容疑で逮捕されたのは、その矢先のことだ。兵庫県の中小企業支援制度を悪用して融資金1000万円をだまし取ったと言う容疑だった。

さらにその後、Yは世界の軍事情報が記載された米国で市販されているレポートを、北朝鮮の軍関係者に送っていたとして「著作権法違反」で再逮捕された。

 

大阪府警外事課はYのパソコンを解析。すると、北の軍関係者との間のメールで隠語を使用していたことがわかった。

「平壌」を「父」、「北京」を「母」、「資料」を「画集」、「接線」(工作員が対象者に接触すること)を「面談」、「外務省」を「東京大学」、「防衛省」を「京都大学」といった具合に言い換えていたのだ。

<母のところで京都大学の画集を受け取る>というメールは、<北京で防衛省の資料を受け取る>の意味だった。

また、Yのパソコンには「ステガノグラフィー」を読むためのソフトが搭載されていた。

ステガノグラフィーとはデータの隠蔽技術の一つで、ネット空間上にある画像の中にテキストデータを埋め込むことができる。本国の工作機関が、風景の写真の中に指令文を埋め込んでおく。それを、工作員が特殊なソフトで解読するのだ。

かつて工作員への指示は、「A3放送」と呼ばれるラジオ放送で、5桁の暗号指令を読み上げて送っていたのだが、最近はステガノグラフィーで送る手法が主流になっている。

Yはこう供述したと言う。

「2008年頃から情報収集を始め、合計2000万円の報酬を受け取った」

この供述が本当なら、Yの行動が迷走を始めた時期と、情報収集を始めた時期は一致していることになる。

関係者によると、Yをコントロールしていたのは、「朝鮮人民軍海軍OBのビジネスマン」を名乗る北朝鮮人で、年齢は40代半ば。中国や東南アジア、ヨーロッパなどで活動していた。

公安警察はこの男を、北朝鮮の軍所属の諜報機関・偵察総局の工作員と見ている。

だが、Yは逮捕後、知人にこう話していたという。

「確かに、連絡を取り合っていたが、渡したのは公開情報だ。スパイ活動なんかじゃない」

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