個人消費がどうしても伸びないのは「アベノミクス円安」が原因だった

賃上げを迫るだけでは何ともならない
竹中 正治 プロフィール

止まらない労働分配率の低下

しかし安倍政権下での実績には大きな弱点もある。それは個人消費の相対的な不振だ。

2013年から17年4~6月期まで、実質GDP伸び率は年率平均+1.4%であり(図1)、これは1995年から2012年までの平均値+1.0%より0.4%高い。ところが、同じ期間の個人消費の伸び率は年率平均+0.8%とGDP伸び率を下回っている。

図1

景気の回復で労働市場が逼迫し、過去4半世紀で最大の人手不足にもかかわらず、賃金上昇率が上がらない。「賃金アップ→消費増→物価上昇」という経路が十分に機能しない問題として、さまざまな議論が行われてきた。

パート労働の時給などは人手不足を反映して上がってきている。しかし、大きな部分を占める正規雇用の賃金を引き上げる動きは労使双方ともに鈍い。

1990年代末の銀行不良債権危機と不況を契機に、労働組合はベースアップよりも雇用維持重視に舵を切り、賃金アップは棚上げになった。また企業経営者も「人件費の変動経費化」のために収益が伸びても、賞与など一時的な支給を増やすのみで、ベースアップには否定的になってしまった。

賃金上昇率の鈍さの背景にはこうした構造的な変化があると私は考えている。その結果、起こっていることは、国民所得に占める労働分配率の趨勢的な低下である。この問題は欧米でも見られ、その原因をめぐる内外のエコノミストの議論も盛んだ。次にこの点を考えてみよう。

 

90年代からだんだん下がっていた 

雇用者の受け取る報酬総額は「雇用者報酬」と呼ばれ、名目と実質値が内閣府のサイトで開示されている。図2は雇用者報酬を国民総所得(Gross National Income :GNI)で割った比率の推移を示したものだ(いずれも物価変動を調整した実質値)。

図2

これを見ると、労働分配率は上下動しながらも90年代から趨勢的に低下している。要するに、毎年生み出される付加価値の分配において、労働に分配される比率が低下しているのだ(ここでのGNIは減価償却費などを差し引く前のグロスである。国民所得の最終確定値は公表が遅く、原稿執筆時点では2015年度までのデータしか使えないので、四半期で開示されているGNIと雇用者報酬データを使用した)。

私が調べる限り、この労働の分配率の変化の要因は4つある。①賃金の変化、②労働生産性の変化、③景気動向、④円相場である。

賃金の変化が労働分配率に影響を与えることは説明するまでもないだろう。また労働生産性(一人当り1時間の労働で生み出される付加価値)が上昇する場合、実質賃金が変わらないと労働分配率は下がる。

ちなみに安倍政権下の労働生産性上昇率(2013-15年の年率平均、16年分は未公表)は1.2%であり、これは2000~12年とほぼ同じ水準だ。この点では「成長戦略」の成果はまだ確認できない。

景気動向との関係は、賃金の変化に粘着性があるために生じる。つまり、不況で企業収益が減少しても、賃金は即座に前年比何十%もカットすることは通常できない。そのため、不況期には企業利益が賃金よりも大きく減少し、赤字決算にもなる。逆に景気回復期でも、賃金の上昇は緩慢で遅行するため、企業利益は大きく増加する。そうした短期・中期的で循環的な変動を労働分配率が示すのは当然なことだ。