永田町の話題はいま、野党再編がどうなるかに移っている。メディア上では、希望の党が内部分裂して、立憲民主党あるいは民進党に大きく移動するのではないか、などの大胆予測を目にするが、実は話はそう単純ではない。政治の世界には、政党間の移動に関するルールがあるからだ。
政治評論家の北島純氏が、政策秘書としての豊富な経験を踏まえて、そのルールと今後の野党再編の動きを解説する。
10月22日の総選挙は、自公の圧勝、希望の完敗、立憲民主の躍進に終わった。野党票が分散したおかげで自公政権が勝利したのは明らかだ。それゆえ、これから野党側で始まるのは、敗北した野党勢力をいかに再編するかという動きになるだろう。
再編のシナリオは今、いろいろと取り沙汰されている。いま世間で注目されているのは、希望の党が内部分裂し、「反小池グループ」が離党、立憲民主党に合流するというシナリオだ。
しかし、実はこのシナリオは実現不可能だ。希望の党の中で小池知事に批判的な旧・民進党勢力の多くは比例復活組だが、比例復活組には国会法の「政党間の移動禁止」ルールが適用されるので、立憲民主党に合流したくても入党できないからだ。
一般の有権者はご存じないだろうが、政党から政党へ移動する際には、一定のルールが定められている。実は、このルールを基準に考えていけば、今後の「野党再編」の予測がある程度可能になる。今回は、国会法の定める比例選出議員の「政党間の移動禁止」ルールと、政党助成法が規定する「政党交付金の配分」ルールから、今後の野党再編の動きを見ていきたい。
「政党間の移動禁止」ルールとは、2000(平成12)年に超党派による議員立法で成立した改正国会法(109条の2)・公職選挙法(99条の2)に基づくものだ。国会議員は「全国民の代表」(憲法43条1項)であり、政党所属の自由もある。
しかし、衆議院・参議院の比例代表選出議員は、政党が作成した名簿に基づいて有権者が投票した結果当選したと言える存在であり、選挙後に他の政党に移籍するのは、有権者の意思に明らかに背くものと言える。
そこで、衆議院・参議院の比例代表選出議員に限って、選挙時にライバルとして争っていた「他の政党」に移籍すると「退職者となる」、すなわち失職すると規定することで、比例選出議員の政党間移動を禁止するルールが新設されたのである。ちなみに、法改正の提案理由説明者は、自民党(当時)の鈴木宗男議員だった。
実務上のポイントは5点ある。
つまり、希望の党の比例復活組を例に取ると、今回の総選挙に比例候補を出していた他の政党(自民党、公明党、立憲民主党、日本維新の会、社民党、共産党等)には移動できないのだ。ただし、新党を立ち上げるか、無所属になるか、政界再編における合併・分割で希望の党のDNAを受け継いで出来た政党に合流することは例外的に可能ということになる。
このような国会法上の「政党間移動の禁止」に抵触する野党再編はありえない。つまり、冒頭で述べたようなシナリオは否定されるということだ。では、許される野党再編シナリオは、どのようなものになるだろうか。
まず考えられるのは、次のようなシナリオだ。
(A)有力な野党議員が中心となって「新党」を作って、希望の党、民進党、立憲民主党の有志が再結集する。
(B)希望の党が分裂し、「小池新党」と「反小池新党」が誕生、反小池党が立憲民主党に合流する(いわゆる吸収合併。この場合、④の、DNAが受け継がれているケースなので比例選出の議員でも移動が可能になる)。
このうち、シナリオAは、今の野党をもう一度ガラガラポンでリセットする作戦だ。しかし、立憲民主党や民進党(特に参議院)からしたら、そうする必要性に乏しいのが実情で、実現のハードルは高いと言わざるを得ない(国民の反発も相当大きいだろう)。
これに対して、シナリオBは、分割手続に希望の党の機関決定が必要となるので、当事者の合意が前提となる。しかし、今の希望の党でそのような合意が形成できるか疑問だ。
そこで、考えられるのが、
(C)民進党に、希望の党と立憲民主党の有志が出戻る。
というもう一つのシナリオ、いわば「カムバック」編だ。従来の民進党にもう一度、旧民進系の議員が再結集するのである。
前原代表が「民進党を希望の党に事実上合流させる」と表明した後、自分自身は無所属で立候補し、民進党からは一人も候補者を出さないとしたことを覚えているだろうか。実は、この「奇策」が政党間の移動禁止ルールの「抜け穴」になるのだ。
実務上のポイント②で指摘したように、比例候補者を出さなかった政党は「他の政党」に該当しないのである。民進党があえて比例候補者を一人も擁立しなかったことで、政党間の移動禁止ルールが適用されず、いつでも、誰でも、民進党への合流(出戻り)が可能になっているのだ。前原代表は「出戻り傘」を用意していたのだ。