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ドクターはシングルモルトを飲みながら、空想の旅に出る

タリスカー・ゴールデンアワー第7回(後編)

シマジ: 夜久ドクターがスコットランドに行ったら、ますます“病”が悪化しますよ。やっぱり現地の蒸留所で飲むウイスキーは格別です。わたしの経験ではとくに海風に頬を撫でられながら飲んたタリスカーが印象的でしたね。

ボブ: まさに百聞は一見に如かずです。

夜久: お願いですから、それ以上刺激するのは止めてください。

シマジ: 夜久ドクターの仕事の話もお訊きしたいです。ドクターは産業医の資格を持って、いろんな企業の従業員の健康チェックをなさっているわけですが、いままでに「これはおかしい」と、病気をその場でみつけたことはありますか。

夜久: ぼくは全国いろんなところへ行きますが、地方には数日連続で1週間丸々行ったりします。ですから重宝がられているんですよ。診察をしていて病気をみつけること自体はそこまで珍しいことじゃありません。ただ、重篤なものだったり、珍しいものだったりすると、すでに他で治療されていることがほとんどです。それでもたまたまみつけることはあります。

シマジ: やっぱり。どんな状態だったんでしょうか。

夜久: 守秘義務というのがあるので詳しく説明することは出来ないんですが、血圧だけがやたらと高い、若くて元気な男性がいたんですね。これだけでどうというわけではないんですが、そのときは少し引っかかったもので、試しに足の血圧を測定してみたら、全く正常な値だったんです。それで「大動脈縮窄症(単純型大動脈縮窄症)」という病気を考えて、詳しい検査を受けてもらうことにしました。

大動脈という、心臓に直接繋がっていて全身の隅々に血液を送る太い動脈が1本あって、血液が心臓からドンドンと圧力がかかって出ているんですけど、その大動脈が途中で狭くなっているのが大動脈縮窄症です。そうすると、狭くなった部分の手前の血圧は高いけど、その先では正常値なんです。

シマジ: よくみつかりましたね。その若者は運がよかった。夜久ドクターが命の恩人ですね。

夜久: たまたまです。それにぼくが命の恩人というのは言いすぎです。今回のように、働ける年齢まで特に症状もなく過ぎることが多い病気ですし、検査の結果次第ではそのまま経過観察になることも多いですから。命の恩人になる人がいるとすれば、それは直接その人の主治医になる先生でしょう。でも、健康そうにみえてもじつは病気を抱えている人って、わりといるものなので、そこだけは本当に気をつけないといけません。

シマジ: 反対に、夜久ドクターの忠告が役に立たなかった例はありましたか?

夜久: 不幸にして間に合わなかったパターンもありました。50代前後の男性で、その方は血圧もすごく高いし、コレストロール値も高いし、とにかく全体的に検査の数値がよくなかったんですね。それなのに特に自覚症状がないから、病院には行かないんです。実を言うと、こういう人はたくさんいます。

「○○さん、全体の数値がよろしくないので、一度病院で診てもらってください」と話したんですが、“てやんでえ べらぼうめぇ”系の人で、「おまえみたいは若造に、そんなこと言われる筋合いはない」とタンカを切られて、結局、病院に行ってくれませんでした。

翌月、その方は急性くも膜下出血で亡くなられたそうです。あとで聞いた話によりますと、亡くなられたのお休みの日だったそうで、朝起きたら「頭が痛い」と言って痛み止めの薬を飲み、それでも痛みが治まらなくて、「ちょっと横になるわ」と言って寝たそうです。

夕刻、奥さんが帰宅したときには、布団のなかですでに亡くなっていたそうです。くも膜下出血の場合、頭が痛くなってから意識を完全に失うまでの間に、意識のはっきりしている時間帯があるんですけど、そのときが治療の間に合う最後のチャンスなんですよね。奥さんは本当にショックだったと思います。

シマジ: 夜久ドクターの言うことを忠実に聞いて、病院に行って精密検査を受けていればよかったのにね。第一、医者とケンカしてはいけませんよね。

夜久: そこはやはり健康診断の限界で、その場で薬を処方したり治療したりすることが出来ないんですよ。医者にかかって血圧を下げる薬を飲むだけでも全然ちがったはずなんですが……。残念です。

ですが、こういうことがあってから、ぼくも言うべきときにはかなりはっきりと言うようになりました。

「血圧が高いだけで死ぬことはないけど、合併症が出たら死ぬよ。しかもすぐ死ぬから、治療が間に合わないことは普通にあるよ。治療を受けながら生活している人は運が良かっただけだよ。死んだ人はそこらへんを歩き回っていないし、話を聞くことも出来ないからね。あなたの運がいいかどうかなんて誰にも分からないし、これほど意味もない運試しもないよ。だから、さっさと病院に行きなさい」って、本当に言います。「身も蓋もない言い方をするな」って言われることがありますけど。

なので、皆さんにも健康診断はちゃんと受けてほしいですし、病院にも行ってほしいです。酒飲みであれば特に行くべきだと思います。

シマジ: ボブ、ちゃんと健康診断は受けていますか?

ボブ: はい。定期的に診てもらっていますよ。

立木: 酒飲みは酒が不味く感じるときは要注意って、ホント?

夜久: 舌は敏感な器官ですから、きっと「病院に行け」という信号を送っているんでしょう。

ヒノ: そういえばサロン・ド・シマジの格言コースターに「元気こそ正義である」っていうのがありましたね。

シマジ: 人生において、ほかの雑多な正義は信用するなということだよ。わたしが気に入っている格言は、「人生の要諦は健全な肉体に不健全な精神を宿すことである」ですね。

〈了〉

夜久宜滋(やく・たかし)
1978年生まれ。医師。ウイスキー文化研究所認定ウイスキーエキスパート。ジャパンメンサ会員。趣味人で遊び人のウイスキーラバーで、不定期更新のブログ「drinker's Lounge」の執筆者。「人が好きだからか、ウイスキーに対しても人の一生を見るように一本のボトルと長い時間付き合いながら飲むほうが向いていると思う」とのこと。
島地勝彦(しまじ・かつひこ)
1941年、東京生まれ。青山学院大学卒業後、集英社に入社。『週刊プレイボーイ』『PLAYBOY』『Bart』の編集長を歴任した。柴田錬三郎、今東光、開高健などの人生相談を担当し、週刊プレイボーイを100万部雑誌に育て上げた名物編集長として知られる。現在はコラムニスト兼バーマンとして活躍中。 『甘い生活』『乗り移り人生相談』『知る悲しみ』(いずれも講談社)、『バーカウンターは人生の勉強机である』『蘇生版 水の上を歩く? 酒場でジョーク十番勝負』(CCCメディアハウス)、『お洒落極道』(小学館)など著書多数。
ロバート・ストックウェル(通称ボブ)
MHDシングルモルト アンバサダー/ウイスキー文化研究所認定ウィスキーエキスパート。約10年間にわたりディアジオ社、グレンモーレンジィ社、他社にて、醸造から蒸留、熟成、比較テイスティングなど、シングルモルトの製法の全てを取得したスペシャリスト。4ヵ所のモルトウイスキー蒸留所で働いた経験を活かし、日本全国でシングルモルトの魅力を面白く、分かりやすく解説するセミナーを実施して活躍しています。