池上彰が悩んでいる。「わかりやすく伝えるだけでよかったのか…」

瀬戸内寂聴さんに打ち明けたこと
瀬戸内寂聴×池上彰

寂聴 だけど嫌ねえ。いくら不安がなくなっても。

池上 もちろん客観的には周りに迷惑をかけるかもしれないんですよ。でも本人は幸せですよね。

寂聴 いや、幸せじゃないのよ。私に言わせると。

池上 幸せじゃない?

寂聴 自分だけが幸せでも、それを幸せとは言わないんですよ。

池上 なるほど。

寂聴 周りも幸せでないと、幸せとは言えないんです。自分の周りだけが幸せでも、幸せとは言えない。

日本だけでなく、世界中、行ったことのないような荒れ地にいる人も、全員が十分ご飯が食べられて、健康でいられる。病気になったら、ちゃんとお医者さんにかかれて、子どもはみんな学校に行ける。そうでなければ、本当の幸せじゃないんですよ。

私たちは今たっぷり食べられて、なんとなく幸せそうに過ごしてますけど、これは本
当の幸せじゃないんですよ。本当の幸せというのは、自分だけのものじゃない。この地球上、世界中の、同じ時代に何かの縁で生きている人たちすべてが幸せでないと、幸せと言えない。

池上 トランプ大統領の「アメリカ・ファースト」じゃないですが、自分たちだけの幸は、幸せとは言えないと。

寂聴 言えません。

池上 みんなが幸せになってこそ、自分の幸せもあるということですよね。

寂聴 そうです。だから、地震があって津波に襲われた。でも、うちは山の上でよかった。それじゃいけないんです。どこかで地震が起こった。遠くでよかったと、喜ぶわけにはいかないの。

池上 いかないですよね。

寂聴 同じ時代、この地球に生まれているというのは、仏教で言えば縁ですよね。

池上 縁ですね。えにし。

 

寂聴 一緒に生きているすべてが幸せじゃないと、本当の幸せとは言えないんです。

池上 東日本大震災で多くの人たちが犠牲になったことを、それこそ我がことのように悲しみますよね。熊本で地震が起きて、あれだけの方々が亡くなれば、本当に辛く悲しいですよね。自分のこととして受け止めるべきなのでしょうね。

寂聴 そうですね。私は今、身体が利かなくなって、今回は熊本には行かれなかったけど、どこかで何かがあれば必ず飛んでいきました。行ったからといって何もできないんだけれど、私は小説を書くより按摩(あんま)がうまいの。

だから「按摩してあげますよ」って言ったら、行列ができて(笑)。でも、それだけでもみんな喜んでくれるんですよ。寂聴さんが来て按摩してくれた。それだけのことで喜んでくれる。だから何もできないけれど、とにかく駆けつけました。

ただ座って、グチを聞いてあげる。それで、みんな本当に喜んでくれるんですよ。小さなことでも行動に移すことが、やっぱり大事なんですね。

池上 でもそうやって大変な人のことを思うことはできても、みんなの幸せを実現するのは、とても難しいことですよね。

寂聴 だから絶対、戦争はいけない。原発はいけないし、要らない。だって人を不幸にするとわかっていることは避けたほうがいいでしょ?