池上彰が悩んでいる。「わかりやすく伝えるだけでよかったのか…」

瀬戸内寂聴さんに打ち明けたこと
瀬戸内寂聴×池上彰

わかりやすく伝えるプロ、池上彰の悩みとは?

池上 ちょっとフォローさせていただくと、最近、情報を受け取る側の読解力や理解力が落ちていると感じることが多いんですよ。そんなこと言うと、今度は私のほうが炎上しそうですけど。

寂聴 たしかに読解力は落ちていますね。

池上 たとえば、炎上してしまった寂聴さんの先日の発言です。死刑制度についての日
弁連(日本弁護士連合会)のシンポジウムに、寂聴さんが「殺したがるばかどもと戦ってください」というメッセージを寄せました。その真意は、国家権力が人を死刑にしようとすることに対する反対です。

寂聴 もちろんそうですよ。

池上 文脈の中で意味をとらえればわかるのに、「殺したがるばか」という言葉だけが拡散され、一人歩きして取りざたされていました。

寂聴 文脈がわからないのね。というのは、文脈がわからないようにしてしまった教育が悪いんですよ。そこまで言いたかったけど、火に油を注ぐことになるから、もう言わなかったの。あ、今言っちゃったけど。

池上 あ、言っちゃった。

瀬戸内寂聴さん(写真・大島拓也)

寂聴 最近感じたんですけど、言葉というのは移り変わるんですね。私たちには平安朝
の言葉はわかりませんよね。そこまで遡らなくても、20年もたったら言葉は変わってしまいます。

身近なところで、私には66歳も若い秘書がいますし、他に女性スタッフが二人います。私にはもう彼女たちの言葉がわからないですし、彼女たちも私の言葉がわからないと言います。最近ずいぶん慣れて、だいぶお互いにわかるようになりましたけど。

池上 言葉については、私もちょっと悩んでいることがあるんです。「物事をわかりやすく、わかりやすく」という姿勢でずっとやってきましたが、それだけでいいのかなと。

もちろんわかりやすく伝えるのは大事なんですけど、みんながわかりやすさばかりを重視していると、難解な言葉の言い回しや、それを読解する力、あえて苦労して理解しようとする力が失われていくんじゃないか。だとしたら、よくないなあと思うんですね。

 

寂聴 よくない傾向かもしれませんね。だいいち本を読まないですよね、今の人たち
は。本を読まないから、文脈も読めないようになっちゃったんじゃないかしら。

池上 はい。もっと本を読めと。本を書いてる人がそう言っても、あまり説得力ないんですけどね。

寂聴 本も売れなくなりました。雑誌も売れなくなりました。読めばおもしろいんだから、もっと読んでくれればいいんだけどね。