老後はどう生きる? 人生の始末をどうする? 池上彰さんの悩みって?
波瀾万丈の人生を送ってきた95歳の作家・瀬戸内寂聴さんに、ジャーナリスト・池上さんが「老後の心構え」について聞いた話題の新刊『95歳まで生きるのは幸せですか?』より特別公開!
寂聴 90歳を超えた私に会って、皆さん別れ際に「いつまでもお元気で」「100まで生きてくださいね」って言ってくださるのね。
でも、だれが100まで生きたいですか? だれがいつまでも生きられますか? 人間の長生きにも加減というものがあると思いますよ。今日はまだボケてませんよね、私。
池上 はい、大丈夫です。
寂聴 いや、ボケてるかもしれない。
池上 「100まで生きてください」ってことは、あと5年は生きてくださいということですね。5年でいいのかという(笑)。
寂聴 もうつくづく、ああ歳をとったなぁと思いますね。90歳までは、そうは思わなかった。やっぱり90というのは大きな境目でしたね。
池上 歳をとったというのは、どんなときに自覚されるんですか?
寂聴 昨日できていたことが、今日できないということがありますね。
池上 たとえば?
寂聴 たとえば、毎朝散歩するのが、長い間ずっと当たり前だったんです。それが今はとてもできない。庭に出るのも辛くって。動けないんですよ。
池上 今、日常生活はどうされてらっしゃいます?
寂聴 年がら年中、本を読んだり書いたり。それは変わりませんね。今は本を読めることが唯一の楽しみ。
池上 最近はどんな種類の本を読んでらっしゃるんです?
寂聴 おもしろそうだなと思ったら、すぐ注文します。本を送っていただくことも多いので、片っ端から読んでいます。
すべての老人が健全に生きてるかというと、そうじゃないのね。若い人に迷惑をかけて生きてるんですよ。若い人はかわいそうですよ。だから人間は、ある程度、体力がなくなったら死んでいくべきなんです。
池上 平均寿命と健康寿命の差が問題ですよね。日本人の平均寿命は80を超えましたが、不自由なく生きられる健康寿命は70代です。本当は生きてる間はずっと元気でいたい。だから「ピンピンコロリ」という言葉があるんですよね。
寂聴 そう、ピンピンコロリがいいですね。自分の経験上、90歳になったら、いくら元気といっても、何かしらマイナス面が出てきますね。私は90歳が境目でした。
池上 いや、90歳まで何も不都合なかったのがすごいですよね。
寂聴 あったんだけど、すぐ忘れちゃうの(笑)。覚えているのが90歳以降。90歳
過ぎると、次から次へといろいろなところが弱ってきます。だから90歳になる前に死
ねたらいいわね。
池上 「シュウカツ」って言葉がありますよね。就職活動の「就活」と、いかに終わりを迎えるかという「終活」。多くの人が「終活」を考え始めています。
寂聴 一番大きな問題ですね。私はやっぱり、老人は早く死んであげないと、若い人がかわいそうだと思います。若い人が面倒見ないと「あいつは薄情だ」なんて言われるじゃないですか。だけど薄情じゃないの。
年寄りの面倒なんて見られないですよ、今の若い人は。自分の生活も大変なんだから。だからやっぱり年寄りはさっさと死んであげなきゃいけない。だけど自殺はいけない。
池上 そこです。年寄りはさっさと死んだほうがいいと言って物議を醸した大臣もいましたけどね。
寂聴 じゃ私もまた……。
池上 また炎上しますよ(笑)。
寂聴 ああ。炎上ってやっぱり不愉快ですよね。この対談はそのまま表に出るから気をつけてと、さっき秘書に言われました。もう駄目だ(笑)。