「食べる時間」を間違えると、たった1週間で肥満になります

スゴすぎる「時間栄養学」の研究成果
ブルーバックス編集部 プロフィール

レプチンとは、食欲を抑制するホルモンのことで、脳に満腹感を感じさせます。ところが、レプチンが分泌されているのにもかかわらず、食欲の低下がみられなくなる状態がレプチン抵抗性です。

通常のマウスにレプチンを投与すると、エサを食べる量が減って体重も軽くなるのですが、寝ているはずの時間にエサを与えたマウスは、レプチンを投与しても、その効果がまったくなくなったというのです。

たった1週間で、レプチン抵抗性が引き起こされたことは、大石さんのような専門家にとっても驚きだったそうです。

 

「レプチンは、エネルギー消費にも関係しているため、基礎代謝が下がって肥満になるというメカニズムも考えられます。

不規則な時間に食べると太ることは、経験的には誰もが知っていても、その具体的なメカニズムについては、これまでほとんど何もわかっていませんでした。その謎に迫ることができる、とても面白い結果だと思っています」

夜中に少しくらい食べても、そのぶん運動すればいいと考えている人は多いのではないでしょうか。

ところが大石さんは、食生活の乱れによる肥満が運動によって改善できるのか、という疑問についてもマウスを使った実験で驚くべき発見をしています。

「運動しているほうが太る」という驚愕の結果

さきほどと同様の食事の時間を制限する実験を、回転かごで運動できる状況においたマウスと、回転かごを取り外してケージの中でうろうろする程度しかできないようにしたマウスに対して行い、両者を比較するというものです。

ちなみに、回転かごのあるケージに入ったマウスは通常、1日に8キロメートルも走るそうです。これをマウスと人間の体重の比から、人間の走行距離に換算すると1日に110キロメートルほども走っていることになります。

それだけ運動すれば、健康になりそうですが……?

「意外にも、運動しているマウスのほうが急激に体重が増加するという結果が得られました」

運動しているほうが太ってしまった!? それはいったいなぜなのでしょう?

「結論から言うと、運動しているか、していないかという影響をはるかに超えて、食べるタイミングが肥満につながってくるということです。

そのうえで、運動しているほうが、よりたくさんのエサを食べるようになるため、結果として急激に体重が増加することになったのです」

[写真]大石さんと研究室のマウスのケージ大石さんと研究室のマウスのケージ。右奥の黄色のケージからは回転かごが取り外されている

食生活の乱れによって引き起こされる肥満に対して、運動はあまり有効でないというのは、とても意外な結果です。食べるタイミングは、私たちが考えていた以上に重要なんですね!

朝に食べるべきもの、夜に食べるべきもの

「一方、脂質代謝の改善効果があると言われている食品についても時間栄養学的な実験を行いました。(夜行性のマウスにとっての)朝にだけDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)の入ったエサを食べさせたマウスと、夕方にだけ食べさせたマウスを比較してみたのです。

すると、朝にだけ食べさせたマウスの血中の中性脂肪が、夕方に食べさせた場合にくらべてはっきりと下がることがわかりました。肝臓中性脂肪やコレステロールを見ても、やはり朝に食べたマウスだけ下がってきます

DHAやEPAなどの体によいとされる「オメガ3系多価不飽和脂肪酸」は、朝に摂取したほうがより効率的に吸収されることも明らかとなり、このことが朝に摂取したほうが効果が出やすいことにつながっているとも大石さんは説明してくれました。

また逆に、夜に摂ったほうがよい栄養素もあるそうです。

「たとえば、塩分は排出効率のよい夜に摂ったほうがいい場合もあります。高血圧で、塩分を控えている人などです。高血圧の予防と治療のためには、塩分の多い食事を朝に食べるのはあまりよくないのかもしれません」

なるほど、これからは食品ごとに、その人にあった食事時間というのが考えられてくるのかもしれませんね。

「じつは、時間栄養学という分野は非常に新しくて、活発に研究されるようになってきたのはここ4~5年のことなんです。そして、この研究では日本がとても進んでいます」

日本で時間栄養学が研究されている理由について、大石さんは日本人の気質と関係しているのではないかと指摘します。

「欧米ではサプリメントがとても流行っていますが、摂り方が雑なところがあります。たくさん摂ればいいというような考え方なんですね。でも、日本人はサプリメントを大量に摂取するのには、抵抗がありますよね。

そこで、あまりサプリメントに頼らずに、日常の食生活の中で、食品の機能性を有効に使おうという発想が、時間栄養学探究の原動力のひとつになっているのだと思います」

体に良い栄養素だけを無理にたくさん摂るのではなく、いつもの食事に含まれている栄養素をうまく使って生活を改善していこうという時間栄養学の発想は、日本人のきめ細やかな性格にもあっているのかもしれません。

生物に生まれながらに備わっている「体内時計」のメカニズムを、最先端の科学の知見を通して、より人が健康になるために利用する。大石さんの研究は、まさに自然の力と人間の知恵をうまく融合させたものと言えます。

自然の作り出した24時間周期のリズムを無視するように活動時間を広げてきた現代社会において、ますますこのような取り組みが必要になってくるのではないでしょうか。

取材協力:

[リンク]産総研