村田諒太が勝つためには「考えないこと」が必要なのかもしれない

「大丈夫、ぶっ飛ばしますよ」
森合 正範 プロフィール

「考えること」が足かせになっていた

前戦は完璧なまでに闘った。私は試合前、村田から思い描く戦い方を聞いていた。3~4ラウンドまでは手を出さない。ポイントを取られてもいい。とにかくエンダムが変則的に放つ右ストレートの角度と軌道、スピードをしっかり見極める。そして、ガードを固めながらプレスをかけて、思い切り右ストレートを放つ。

作戦通り。リング上の姿と戦略を語っていた時の村田が寸分の狂いもなく重なった。ボクサーは誰しも作戦を立てる。ところが、いざリングに上がれば対戦相手もいるし、試合独特の緊張もある。相手だって研究してくる。戦略通りに闘える試合なんて、そうあるもんじゃない。

ましてや、村田にとっては初の世界タイトルマッチだ。リング上を見つめながら、驚きを超え、感動すら覚えた。

 

実は村田の最大の長所は強烈なプレッシャーをかけることでも、右のストレートでもない。作戦を遂行する能力の高さではないか。そんな思いを投げかけた。

「あそこまで戦略とリング上が一致したのはたまたまですけどね。(エンダムの)パンチがめちゃくちゃ強かったり、僕のプレッシャーが通用しなかったらできなかった。あのスタイルでたまたまできた。あれはメンタルが強いとか、遂行能力うんぬんではないです。本当ならここで『頭で考えたことを完璧に体現できた』とか言えばかっこいいんでしょうけど…。でも、たまたま通用したのが正直な話ですよ」

――とはいえ、試合中に考えていることをきちんと実行できたのでは?

「うーん。試合中に考えているとか、コントロールするとか、そんなことを考えなくてもやれるヤツが一番強いんです。(井上)尚哉とか清水(聡)みたいにあんまり考えずにやっている方が強いなと思うんですよ」

前戦の反省がある。4ラウンドにダウンを奪い、相手にまだダメージが残る第5ラウンド。過去の試合で見たエンダムの早い回復力が頭をよぎる。手数を増やすこともなく、打ち合うこともなく、これまでのラウンドと同様、普通に闘ってしまった。

中盤以降、何度も右の強打で相手をロープまで弾き飛ばしても「ここでスタミナを使い切ってはいけない」とブレーキをかけてしまう。いずれの場面も「考えること」が足かせとなっていた。

元世界王者で帝拳プロモーションの浜田剛史代表は「村田は考えてボクシングをするところがある。そういった面では評論家がボクシングをしているようなもの」と評した。これは褒め言葉でもあり、一つの忠告でもある。

浜田代表は「普通の人でもそうだけど、考えると(動きが)止まってしまう。試合では絶えずいくつかの選択肢があって、瞬間的な決断が必要になるので」と付け加えた。